原田マハが面白い

原田マハが面白い。早稲田の二文で美術史学を専攻し、馬里邑美術館、森ビル森美術館設立準備室、ニューヨーク近代美術館などで勤務した経歴をもち、フリーのキュレーターとして活動していた彼女は何より絵画に関する造詣が深い。
絵画をテーマとする作品が彼女の真骨頂であるが、女性の生き方をテーマにしたものも好感が持てる。

まだ彼女の作品をすべて読みつくしたわけではないのだが、読んだ8作品が全ておもしろかったので、紹介したい。

1.「暗幕のゲルニカ」 新潮社
2003年3月、アメリカがイラク空爆に踏み切る際、国連安保理会議場のロビーのあるゲルニカのタペストリーに暗幕がかけられた。反戦の象徴である「ゲルニカ」のタペストリーの前で、戦争の開始を宣言するのがはばかられたのであろうが、これがこの作品の発端になる部分であり、原田マハがこの作品を書く動機となった出来事である。(私はこの事実をこの作品に出合うまで知りませんでした。話題にならないように、取り上げないようなマスコミ操作がされたのかしらと思ってしまいます。)
主人公のニューヨーク近代美術館のキュレーター瑤子は、これに抗議し、反戦を訴えるために「ゲルニカ」をスペインから借りうけ、ニューヨークで美術展を開催しようと企画する。しかし、「ゲルニカ」は世界で最も借りるのが難しく、移送も困難という絵画である。はたして、瑤子は「ゲルニカ」の展示をニューヨークで行うことができるのか?

2.「楽園のカンヴァス」 新潮社
これもアート・サスペンス。アンリ・ルソーの絵画の真贋をめぐって物語が展開する。画家の人生であまりハッピーな話は聞いたことがないが、アンリ・ルソーもまた貧困の中で絵を描き続けた。新品のカンヴァスは高価であるから、誰かが描いたカンヴァスを塗りつぶして、その上に新たな絵を描いた。しかし、塗りつぶしたカンバスの上に描かれたルソーの絵の下に描かれていたのがピカソの作品だったら?もしも、そのルソーの作品が偽物であったと判定されれば、容赦なく偽物を剥ぎ落して、その下に埋もれていたピカソの絵を浮かび上がらせるだろう。真贋の鑑定をめぐってスイスに招かれた早川織江とティム・ブラウン。鑑定をめぐるルール。織江とティムはどのような鑑定をするのだろうか?


3.「まぐだら屋のマリア」  幻冬舎文庫
この作品の主人公が死をも覚悟して尽果(つきはて)というバス停で降り立ったところから話は始まるのだが、高級料亭では働いていた主人公がそこまで追い込まれる発端となる出来事は、明らかに1991年に話題となった高級料亭の船場吉兆の使い回し(「手つかずのお料理の再提供」ともいうらしい。)事件だなと想像できる。そんな出来事もあったなと過去のニュースを思い出し、引き込まれて行くのだが、ストーリーの核は傷つきボロボロになった主人公がまぐだら屋のマリアのもとで、癒され再生していく課程である。
原田マハの作品の登場人物は必ず成長していく。希望の持てる結末は、どの作品もすがすがしく、安心して読めるのだ。さらに左手の薬指のないマリアもなにか重い過去を持っていることは最初から想像できるのだが、その事情をなかなか明らかにしていかないところが、作者のうまさなのだろう。

4.「インディペンデンス・デイ」  単行本(PHP)
24の短編で構成されている。登場人物がつながっているところが面白く、最初に登場した人物が、ぐるっと回って最終章で再び出てくるところが面白い。登場人物は決して恵まれているとは言えない人生の人たちばかり。家庭環境、職場、それぞれ悩みを抱えている。運の悪さを嘆きながらも、登場人物がやさしい人に出会うことや何らかのきっかけで「独立」していく。いいな。励まされる。

5.「さいはての彼女」  角川文庫
これも爽やかな作品。これも短編の寄せ集め。登場人物は仕事一筋の女社長や一流企業の仕事のできる女、など。プライドが高く、高収入で贅沢な食事や服装になれていた彼女たちがひょんなことから、そんなことが通用しない旅に遭遇してしまうところが笑える。仕事ができて、社会的地位も高く、鼻持ちならない女に見える登場人物が、本当は神経をすり減らして生活していて、旅先での出会いや出来事を通してリセットされていく。

6.「旅屋おかえり」 集英社文庫
旅番組のレポーターをやっていた「おかえり」こと丘えりか。まさかのミスで番組は打ち切りに。病気で旅行に行けない人から自分の代わりに旅をしてきてくれという依頼がはいり、「旅行代理業」をすることに。こんな仕事が成り立つとは思えないけれど、「おかえり」のやさしさがあってこそ。読んでみると納得のいく展開。

7.「奇跡の人」  双葉文庫
タイトルからヘレン・ケラーを想像する人は多いと思うが、その通りです。設定を日本に置き換えたストーリーで、去馬安、介良連というネーミングも、アン・サリバン、ヘレン・ケラーをもじったもので、気づいたとき思わず笑ってしまった。
この作品を読むとあらためて思う。三重苦の少女が言語を習得し,ものを考えるようになるというのはどういうことなのだろう。水にふれることでこれは水なのだと認識できても、手のひらに書かれた水という単語を手にふれている水そのもののことだと理解するのはかなり困難なことなのではないか。モノの名前がわかってきたとしても、動詞や抽象的な言葉をどうやって認識するのだろうか。
さらにこの物語は明治時代の青森県の旧家という設定で、その主人は世間体を気にするだけ。跡継ぎの長男は自分の婚姻に連の存在が足を引っ張らないようにと思うのみ。
そんな環境の中で、安は闘い、連の心をつかんでいく。
読み終わった後、最初から無理とあきらめてはいけないよ。三重苦という困難に立ち向かった奇跡の人ヘレン・ケラーは実在の人物で、現実にあった話なのだよ。と言われている気がした。

8.「異邦人(いりびと)」  単行本(PHP)、PHP文芸文庫
主人公の女性が金持ちで、東日本大震災の時の原発事故の影響を避けて、京都に長逗留してそちらで出産しようとするあたりの設定が、庶民の生活とかけ離れすぎていて、ちょっと鼻についた。が、画廊や美術館、京都の行事など、自分のよく知らない世界が丁寧に描かれていて面白く、読み進んでいくうちに主人公の女性に感情移入できていくのも、作者のうまさだと思った。


夢中になれる本があるというのは楽しいこと。納得のいく作品に出会えると、幸せな気持ちになれる。そして、どの作品も、「おもしろかったです。」とお勧めできます。

小さな町の書店主 「一万円選書」の岩田徹さん

6月末の日曜の午後、何気なくテレビをつけたら、NHKで「プロフェッショナル 仕事の流儀」をやっていた。2018年4月23日に放映された、北海道砂川市の書店主 岩田徹さんを扱った回の再放送である。
アマゾンのようなネットで本が購入できるような時代になってしまってからは、書店の経営は厳しい。しかし、岩田さんのように書店主の取り組み方で、生き残っている書店もあるという事に驚きを感じた。
岩田さんの本に対する愛情は深い。どれだけの読書量があり、本に対する知識がどれだけあるのだろう。何より素晴らしいのは、「1万円選書」という売り方。カルテと呼ばれるアンケートにより、その人の読書暦、経験、好みその他により、岩田さんがこれと思う本を1万円分選んでくれて、発送してくれる。(本代と送料だけで手数料はとらない。)
何を読んだらいいのかわからない、でも、人生の支えになるような良書にめぐりあいたい、そして何より本を読んで面白いと思いたい、という人は多いのだ。売れ筋とは限らない、題名すら聞いたことのなかったような本が選ばれていたりする。そこに岩田さんのやさしさや、読む人のことを思う気持ちがあふれている。
「1万円選書」で本を選んでほしい人はなんと3000人待ちだという。
赤字続きで経営難の書店、しかも人口の少ない北海道の小さな町の書店が、全国的に有名な書店になってしまった。

私も、岩田さんの活動に刺激を受けた。このところ、またブログ書けないでいたけれど、細々と読書を楽しみながら過ごしていた。面白い本の情報を求めている人は多いと思う。私も本好きの友人からの口コミで、読んだ本は多い。口コミは信頼できる情報だ。ならば、私も感謝をこめて面白い本の情報をブログに書いて紹介するのもいいかなと思えた。

『暗幕のゲルニカ』   原田マハ著  新潮社

原田マハが大好きという友人のY子さんから「おもしろいよ。」と、この本を薦めてもらった。
本当に面白かった。やはり、口コミは頼りになる。
書店に行っても、図書館に行っても、本の数が膨大過ぎて何を選んだらよいのか途方にくれる私にとって、こうした情報はありがたい。(今回はアマゾンで購入しました。)

この作品はスペイン内戦から第二次世界大戦にかけての、ピカソとその恋人を取り巻く20世紀のストーリーと、ニューヨーク近代美術館のキュレーター瑤子を中心にした21世紀のストーリーが交錯しながら展開していく。
20世紀の部分は登場する人物のほぼすべてが実在の人物で、史実をからませて書かれている。
21世紀の部分はフィクション。

「ゲルニカ」はスペイン内戦を兵器の実験場として利用したヒトラーがスペイン北部の都市ゲルニカに無差別爆撃を行ったことに対して、怒りをこめてピカソが描いた絵である。1937年、パリ万博のスペイン館に展示され、その後ファシストの手に落ちて破壊されることがないようにと、1939年からニューヨーク近代美術館に寄託され、フランコが没して民主化が復活した1981年にスペインに返還された。

「ゲルニカ」は反戦・反抗のシンボルなのだ。
21世紀の部分の主人公である瑤子は、この絵画を反戦の絵画として展示を企画する。この部分はまるでフィクションなのだが、ストーリーの展開が激動で、引き込まれてしまう。

それにしても、と思う。
スペイン内戦から第二次世界大戦にかけて歴史上に登場した人物は、ドイツのヒトラー、ソ連のスターリン、そしてスペインのフランコ。
スペイン内戦に勝利したフランコは、内戦で疲弊したスペインは大戦に参加しえないとして中立をとったので、スペインはフランコの死ぬ1975年までフランコの独裁となる。この間、カタロニア人やバスク人などの少数民族がどれだけの弾圧にあったのかと思う。
ヒトラーに関しては虐殺されたユダヤ人の数は600万人とも700万人とも言われているし、スターリンのもとで反体制派として処刑された人は100万人、収容所で死亡した人200万人と言われている。
もう最悪である。

独裁者の出現は怖い。権力を握った者は、自分の権力を維持するためなら、反体制勢力を殺す。戦争を始めることもできる。怖すぎる。

歴史は繰り返す、という言葉があるけれど、少なくとも、第二次世界大戦という歴史上最悪の経験をした人類が二度と過ちの道に進まないようにと思う。

プーチンや習近平が長期政権を可能にする体制をつくっていくことに疑問を持つけれど、戦争だけは起こさないようにしてくれよと思う。もちろん、2期は持たないだろうと思われるトランプにしても。

いつもの癖で、ネタバレをしないようにと文を書き始めたら、『暗幕のゲルニカ』から話がそれてしまったが、「ゲルニカ」の描かれた背景や、現代社会に訴える意味などにも思いをはせながら読んでみることができたように思う。

時代小説

抗がん剤治療中の私にとって、眠れない、食べられない、疲れやすいという症状が辛かったのですが、それとともに私を苦しめたのが、集中力がない、何をやっても楽しくない、という症状でした。
この症状は、投与が終了して5か月近くたった今でもまだ完全には治っていません。特にメンタルをやられたようで、家で一人で過ごしている時に、どう時間をやり過ごしたらいいのかわからず、しんどい思いをしています。

テレビを見ていて面白い、夢中で本が読める、ということができたなら、何も苦労することはないでしょう。テレビにも本にも夢中になれない、家事その他、何かをやる気がおきないとなると、本当に一日が過ぎるのを長く感じてしまいます。

そんな私が何とか読めた本を紹介します。
時代小説。「みをつくし料理帖」シリーズ全10巻 高田郁(たかだ かおる)著 ハルキ文庫
1~2年前にNHKのBS時代劇、黒木華主演で放映されていたようです。
主人公が心をこめて料理を作ります。
「食」は生きていくうえでの基本なのだなと感じさせられます。主人公は襲ってくる困難や不幸な出来事にたいして、耐え、受け入れ、立ち向かいながら、料理ができる喜びを支えに生きていきます。強い女性で、周りの人も温かい人ばかりで、読んでいて気分良くなります。

読書の目的は、自己啓発のため、知識を得るため、など、人によって様々でしょう。
私のように病気をしてしまったものにとっては、心が穏やかになるような温かい時代小説、主人公の生き方に共感でき、読んでいてこちらも励まされるようなストーリーがしっくりきました。
そしてもちろん、心身ともに健康な方がぐいぐい読んで楽しめる作品です。

近況報告

長い間、ブログが書けないでいました。11月2日以来ですので、かれこれ半年近くにもなります。その間、何をしていたかというと闘病をしていました。
悪性リンパ腫という血液のガンにかかってしまい、昨年8月末から12月末まで8回にわたる抗がん剤投与による治療を受けていました。その結果、1月のPET検査で完全寛解と診断されました。
悪性リンパ腫は効果的な薬が開発され、今や治癒率の高い病気に分類されると思います。世の中には治療法も確立していない難病が存在していることを考えれば、効果的な薬が開発されたという事は本当にありがたいことです。しかも、私の場合、2期という早期発見であったこともラッキーでした。
とはいうものの、この間の抗がん剤治療はやはり辛いものでした。眠れない、食べれない、疲れやすいという症状に悩まされます。さらに、ケモブレインという呼び方があるそうなのですが、何とも集中力がなくなり、じっとしていられないという症状が私の場合出ました。
でも本当に辛かったのは完全寛解と診断された1月以降だったように思います。寛解しても副作用の影響はまだ残ります。また、副作用の出方も人それぞれと言いますが、私の場合、神経というのか、心というのか、メンタルをやられてしまいました。
投与期間の終盤あたりから、不安の虫に襲われるようになってしまったのです。眠れない夜や、目が覚めてしまった明け方が危険でした。不安に襲われて胸苦しくなるというのは自分の意志ではどうにもなりません。それで、抗不安薬を処方してもらったのですが、私にとってはそれもよくなかったようです。抗不安薬は即効性があり、すぐに楽になるし、夜も寝付く効果があるのですが、即効性があるという事は依存性も高いという事です。依存しすぎないように、自分で1日2錠までと決めてはいたのですが、薬が切れると苦しくなるような症状になり、通っていた病院の腫瘍精神科を受診しました。抗不安薬はやめることになり、別の薬になったのですが、薬を変えたあたりが一番つらかったです。
その後、もう数か月がたち、4月も下旬になってしまいました。肉体的には血液検査の結果も特に問題く、回復してきました。しかし、心を病むと長くかかるものですね。だいぶ良くなってきたとはいえ、まだ、一人で家にいるときに時間がやり過ごせず、辛い時がしょっちゅうあります。

このブログで、古い映画の掘り起こし手をして、若い世代がまだ生まれていなかった頃の映画の紹介をしてきましたが、映画が見られなくなってしまったのも辛いことでした。映画どころか、まだ、ストーリーのあるテレビドラマをじっくり1時間見ることができません。途中で辛くなるという事もあるし、我慢して最後まで見てしまって気持ち悪くなったりします。
何なのでしょうね。本は自分のペースで、30分くらい読んで疲れたらやめる、というやり方で、少しずつ楽しめるようにはなってきました。
だいぶ回復してきたとは言うものの、まだまだ病気の前の状態には戻っていません。
ブログも再開してみようという気がおきて書いてはみたものの、今後、頻繁には書けないと思います。でも、少しずつ、自分の思い、病気になって分かったことなどを書いていこうと思いました。
そして、また、映画を見ることができるようになったら、お奨めの作品を紹介したいと思います。

プロフィール

萩谷功枝

Author:萩谷功枝
世界史教師をしています。

映画や本の紹介、最新のニュースから感じたこと、など自分の日常を通して、世界史のことを考えていけたらと思います。

最新記事
月別アーカイブ
カテゴリ
全記事表示リンク

全ての記事を表示する

検索フォーム
リンク
QRコード
QR