『アルゴ』 アメリカ大使館占拠事件からの脱出、そしてその後のこと。

9月のブログで、「脱獄モノ、脱出モノが好きだ。」と書いたところ、読んで下さった何人かから反応があった。
私だけでなく、脱出モノ好きは、結構多いのかもしれない。

で、脱出モノならこれがおすすめというのが、「アルゴ」。
ベン=アフレック監督・主演  イランのアメリカ大使館人質事件を描いたもので、
2013年のアカデミー作品賞をとっている。


ラストがドキドキする。
「電話出て―。」
「飛行機早く飛んでー。」

と、見ながら思う。

飛行機が離陸して脱出成功した瞬間、見ているこちらも、一緒にハイタッチして、「おめでとー」、と祝福したい気持ちになる。


この映画は2年ほど前の作品だが、アメリカ大使館人質事件は1979年のことなので、多くの方は、前後の状況などお忘れになっていると思う。
さらに、「まだ生まれてない。」と、いう方も多くなっている。

なので、簡単にこの事件の概略を説明します。

アメリカ大使館人質事件
1979年、イラン革命が発生した。
国王パフレヴィ―2世の親欧米路線、人権抑圧に対する反発からだ。

パリに亡命していたイスラーム教シーア派の指導者ホメイニが帰国。

国王はエジプトに亡命し、その後、数カ国を転々としたが、末期がんの治療を理由にアメリカへの亡命を求めた。
当時のカーター大統領は、イランの新政権との間で軋轢が起こることを憂慮し、受け入れを拒否しようとしたが、最終的に、「人道的見地」から、これを認めた。

これに対して、イランでは、アメリカ大使館占拠事件がおこった。
アメリカ人外交官や海兵隊員とその家族計52人を人質に元国王の身柄引き渡しを求めたのだ。

このとき、大使館が占拠される直前にアメリカ外交官6人がテヘラン市街に脱出し、カナダ大使公邸にかくまわれた。
この6名に対し、カナダ政府はカナダのパスポートを発給。
さらにCIAが彼らを、架空のSF映画『アルゴ』の撮影スタッフに変装させて脱出させる作戦を実行した。
この顛末を描いたのが、映画『アルゴ』。

で、大使館で人質になってしまった52人はどうなったか。
アメリカは軍事力による人質の奪還を試みたが失敗。
結局、元国王が死去したことで、大使館占拠の目的がなくなり、水面下の交渉を経て、事件発生から444日後の1981年に人質は解放された。

以上、Wikipedia を参考にこの事件をまとめてみました。


『アルゴ』について書き始めたのだから、ここで今回のブログを終了すればよいのだが、悪いクセで、そのあとのことに思いを巡らせてしまった。
(以下、『アルゴ』とは、全く関係ありません。というか、イランからすっ飛んで、イラクの話になってしまいました。)


アメリカ大使館占拠事件の後、何が起きたか。

このイラン革命の混乱に乗じて、隣国イラクのサダム=フセインがイラン=イラク戦争を起した。
イランとの関係が悪化しているアメリカはこの戦争に際して、サダム=フセインのイラクを支援した。
(このときの武器援助が、イラクを軍事大国にのし上げてしまった。)

その後、湾岸戦争では、サダム=フセインは、父ブッシュのアメリカを中心とする多国籍軍に敗北した。
(イラクとアメリカの関係はどんどん悪くなっていく。)

そして、子ブッシュは、2002年の一般教書演説で、北朝鮮とイランとイラクの3国を「悪の枢軸」と名指しし、大量破壊兵器を保有しているという理由で、イラク戦争を開始した。
(結局、大量破壊兵器は見つからなかった。)

イラク戦争で、サダム=フセイン政権は崩壊し、次のマリキ政権は、シーア派を優遇した。
(結局、優遇されるのがスンナ派からシーア派に逆転しただけで、宗派間の対立は何も解決されなかった。)

そんなことをやっているうちに、北部でイスラム国という、恐ろしい集団が勢力を拡大してしまった。
(イスラム国には、旧サダム=フセイン側の人間が加わっている。
イスラム国の武力には、武器を捨てて逃げた脆弱な政府軍の武器も含まれている。


こうやって振り返ってみると、世界情勢のめまぐるしい変化に、ため息をついてしまう。
わずか35年前、イランは親米政策をとっていた。
イラン=イラク戦争の時点では、アメリカはイラクを支援した。

現在の国際関係を考えると隔世の感がある。



「脱獄モノ」について書き始めたはずなのに、後半、話が大きくそれてしまいました。
最後まで、お読みいただきありがとうございました。

『キャプテン・フィリップス』をみてソマリアの貧困について考えた

「キャプテン フィリップス」
2013年のアメリカ映画。
トム=ハンクス主演。
2009年に起きた「マークス・アラバマ号」乗っ取り事件でソマリア海賊の人質となったフィリップス船長を描いた作品。

日本では2013年11月末に公開された。公開からはや1年になる。
WOWOWでは今月末、初放映される。

この映画の評判は概ね好評である。

援助物資を積んでケニアに向かっていたコンテナ船マークス・アラバマ号は、ソマリア沖で4人の海賊に船を占拠されてしまう。
フィリップス船長は、人質にとられてしまい、救命艇という狭い空間でソマリア人海賊との4日間を過ごすことになる。
トム=ハンクスがうまい。
船長であり、家族を愛するごく普通の一般人でもあるフィリップスが、銃を向けるソマリア人海賊と共に過ごした死と隣り合わせの4日間。まさに極限状態である。
終盤で、フィリップスの精神状態は限界に達する。
そして解放された後の医務室での表情。

この映画で、海賊のリーダー「ムセ」を演じたバーカッド=アブディは、ソマリア系のアメリカ人で、アカデミー助演男優賞をとった。
漁師が人を誘拐しなくても、ほかに道はあるだろ?」
というフィリップス船長の言葉に、
「アメリカならな。アメリカなら・・・。」と言った時の、ムセの悲しい表情がたまらない。

映画の展開も、テンポよく、冒頭からずっと緊迫感が続き、飽きるということがなくラストまで見入ってしまった。
映画として面白いことは間違いない。



この映画を見ると、どうしてもソマリアという国の貧しさと、その対極に位置するアメリカという国との国力の違いを考えさせられてしまう。

銃を持って、船を乗っ取ったソマリア海賊。着ている服は粗末で履いているものはサンダル。一人は裸足で、ガラスの破片を踏んで、足に怪我をする。
フィリップス船長の差し出した金庫の3万ドルを手にして退散するチャンスはあったのに、そんな金でははした金だと突っぱねて、さらに高額を要求する。
これにより、事態はさらに悪い方向に進んでいく。
ムセが欲張りなのではないのだ。
そんな金では、海賊のボスが納得してくれないからなのだ。
しかも、海賊行為が失敗すれば見捨てられるだけ。誰も助けには来ない。

一方、一人の民間人を救うために海軍特殊部隊(ネイビーシールズ、Navy SEALs)を出動させるアメリカという国。
畳数畳ほどの大きさの救命艇の中にいる人質と犯人を識別して、数十メートルの距離からピンポイントで犯人を狙撃することができる。



なぜ、ソマリア人は海賊行為をするのか。
言うまでもない。貧しいからである。

(以下、映画とはあまり関係のない話になります。)

2014年3月24日、来日したソマリアのハッサン大統領が日本記者クラブで話した言葉が、どうにもならなさをあらわしている。
「(バレ政権崩壊直前の)1990年に5歳だった少年は29歳となり、妻子もいる。ところが学校にも行っておらずスキルもない。彼の唯一の選択肢は銃だけだ。海賊かアルシャバブに入るしかない。」

(この大統領は、国際的な承認を受けたソマリアという国家を代表する政権ということになっているけれど、国内の海賊やアルシャバブというイスラーム過激集団を抑えることはできていない。)

そもそもソマリアという国は国土のほとんどが乾燥地域だ。
国の南部を赤道が通過していて、熱帯雨林かサバナが分布していそうな緯度に位置しているのだが、雨はほとんど降らない。ここは季節風が卓越し、夏はアフリカの内陸から、冬はアラビア半島方向から乾燥した風が吹き抜ける。
上空から眺めると、緑の豊富なエチオピアと、殺伐とした乾燥地域のソマリアの国土の違いが分かるという。
それでも、1980年頃までは、ソマリアは食料の自給国だった。遊牧民と小農民との間に物々交換で経済が成り立っていた。
それが、ここにもグローバル化の波が押し寄せ、アメリカの余剰穀物が流れ込んだ。
ソマリアは穀物輸入国となってしまい、物々交換システムも崩壊した。
漁業はどうか。海岸地帯の人々は漁民として暮らしていた。
しかし、ソマリアが内戦状態に陥った1992年以降、先進国の大型漁船が違法操業でマグロなどを乱獲し、ソマリアの漁業を脅かした。
さらに、ソマリア沖での産業廃棄物や放射性廃棄物の投棄により、海が汚染された。

産業が崩壊してしまったのだ。
そして内戦、干ばつが追い打ちをかける。
働きたくても仕事がない。教育を受けることができないから何のスキルもない。
生きていくためには銃しかない。



現在、日本船籍の船でも、武装した警備員の乗船を認める法律が施行された。
スピードを上げてジグザグ走行をしたり、放水をするだけでは、海賊の追撃を振り切れない。
いったん乗船を許したら、銃を持っている相手に抵抗するすべもなく、乗っ取られてしまうのでは、どうしようもないから、こちらも銃を装備しているんだぞということを示すため、銃による威嚇は必要である。
何も対策をとらなかったら、海賊行為を助長させるだけであるから、商船の武装は当然の流れだろう。

しかし、これは単なる対処療法。
根本の原因は、ソマリアの貧困。産業の破壊。
それは、干ばつなどの自然災害だけでなく、人災によって引き起こされた。

貧困。武力をもったグループの過激化。
彼らが、武器を捨て、生産的な仕事に就ける日が来るのは、まだ遠い先のことなのだろうか。


プロフィール

萩谷功枝

Author:萩谷功枝
世界史教師をしています。

映画や本の紹介、最新のニュースから感じたこと、など自分の日常を通して、世界史のことを考えていけたらと思います。

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