『ザ・トゥルー・コスト  ~ファストファッション 真の代価~ 』

12月中旬、末娘から映画に誘われました。
めったにあることではないので、「行く!行く!」とうれしくなって誘いに乗りました。
クリスマスやら歳末商戦でにぎわう渋谷まで行ってきました。

誘ってくれた映画は
『ザ・トゥルー・コスト  ~ファストファッション 真の代価~』

世の中は『スターウォーズ』の公開で盛り上がっているさなか、何を好き好んでこんな映画を、といわれてしまいそうなくらい硬い内容の映画でした。
こういうのを社会派映画と呼ぶのでしょう。
娯楽性ゼロ。
衣料品業界の問題点をこれでもかというくらい列挙し、映画の構成は、取材、インタビューのみ。
バングラディシュや東南アジアで、今起きている悲惨な状況が次々に映像で流れていきます。

低い賃金で働かされて、ちっとも豊かにならないバングディシュの女工たち。
染料の化学薬品の廃液処理をしていないために汚染されている河川。
広大な綿花畑の農薬による健康被害。
設備投資に手が回らないから、老朽化して工場の壁にひびが入っていたのに、手を打たず、工場は倒壊、働いていた労働者は生き埋め、という悲惨な事故。
労働問題、社会問題、環境問題・・。様々なことが発生しています。

見ていて、産業革命期のイギリスみたいだなと、思いました。
産業資本家は利益のことしか考えないから、低賃金で雇える少年や女性に長時間労働をさせました。廃液の処理などしないから、テムズ川は汚水でまみれました。
だから、ロバート=オーウェンが尽力して、「工場法」を制定して、労働条件の改善を行ったのです。19世紀のイギリスが歩んできた道です。
しかし、イギリスで労働条件が改善できたのは「世界の工場」になり、豊かなイギリスになったからできたことなのかなとも思ってしまいました。
貧しい発展途上国では困難なことなのでしょうか?

ここでもまた考えてしまいました。

ファストファッション・ブランドが、安い労働力を求めて、中国へ、タイへ、ベトナムへ、カンボジアへと、生産の拠点を移していく様子は、親会社、元請け、孫請けという構造で成り立っている現在の日本の建設業界の様子が思い浮かんでしまいました。
孫請けは発注がなければ、仕事にありつけないわけです。ひどい条件でも、飲み込まなければ、発注者はよそに発注するだけです。孫請けは最低の条件を飲んで仕事を請け負うしかありません。そして儲けは親会社に流れる。
それと同じで、タイの会社が条件を飲まなければファストファッション・ブランドはさらに労働力の安いカンボジアに工場を建てて、そこで生産すればよいだけなのです。

この映画は特定のファストファッション・ブランドの批判を意図するものではない、ということです。つまり、非難するのが目的ではなく、より良い世界をつくっていくために、どうしたらよいかを考えましょう、という映画なのだということだと思います。
とはいうものの、映像では、ZARA,H&M,などのロゴや店舗の看板が登場します。
「やっぱり批判してるよな」、とは思います。でも結局、世の中が変わるためには、業界トップのZARAやH&MやGAPやユニクロが変わらなければならないと思うのです。
こうした会社は、利益の追求だけではなく、社会貢献という要素も取り入れて行かなければならない。それがこの映画で言っているフェアトレードとかエシカルいう価値観であり、今後、これが絶対に必要になってくると思いました。


産業革命期のイギリスで労働問題・社会問題が発生し、これを解決するために社会主義という思想が誕生しました。20世紀の後半は「資本主義 対 社会主義の東西冷戦の時代」でしたが、社会主義は資本主義に敗北しました。社会主義は富の分配の仕組みとして理想のものであったかもしれないけれど、競争のない社会は経済的発展という点で資本主義に敗北するしかなかったのです。
今後、資本主義にとって代わるシステムは当分、現れないといわれています。
でも、問題は浮き彫りになって来ています。
「格差」です。
それは一つの国の中での富裕層と貧困層というだけの話ではなく、グローバルな「豊かな国と貧しい国の格差」の問題になっています。
このままでいいはずはない。
ファアトレードとかエシカルというと、うさんくさげに「それで何が変わる。」言われそうだけれど、これから先の資本主義を考えた場合、それが重要なキーワードになってくるのかなということを感じさせられた映画でした。

『ブラッド・ダイヤモンド』

『悪の力』 姜尚中 著  を読んでいたら、次のような文章がありました。
「(人間というものは)場合によっては自分では気づかないうちに、悪を及ぼしているかもしれません。 たとえば、大枚をはたいて、愛する女性にやっとダイヤモンドの指輪をプレゼントすることができ、恋人も幸せな気分に浸っているとしましょう。(略)しかし、指輪は経済的・社会的連鎖を通じて、思いもよらない、遠いアフリカの「紛争ダイヤモンド」、いわゆる「ブラッド・ダイヤモンド」と繋がっているかもいるかもしれないのです。」

今週はなにやら、「ブラッド・ダイヤモンド」に縁がありました。

ネットであちこち検索していたら、「個人的にオススメしたい社会派な洋画10選!」というブログ※の記事にいきあたり、そこで、「ブラッド・ダイヤモンド」がオススメ度★★★★★で紹介されていたので気になっていたところだったのです。
※〔apollon  高知で働くフリーランサーのブログ    d-illust.com 〕


実は私は、以前『ブラッド・ダイヤモンド』を見ようとしたことがあるのですが、冒頭の、兵士たちが村を襲撃するシーンが、あまりにも残虐で見ていられなくなり、挫折しています。
(wowowで録画していたものを、どんな映画なのかの知識もないまま、家のソファにふんぞり返りながら見始めるという、安易な取り組み方がいけなかったのだと思います。)
今回、これが社会派な映画であるとようやく知り、見てみようと思いました。
見終わった今の感想は、「見てよかった。」です。
今まであまり好きでなかったディカプリオが好きになりました。

////////////////
『ブラッド・ダイヤモンド』
2006年のアメリカ映画
(9年前の映画。気になってはいたものの見逃している、という方は是非。自信を持ってオススメできます。)

監督:エドワード=ズウィック
出演:レオナルド=ディカプリオ、ジャイモン=フンス―、ジェニファー=コネリー


舞台となったシオラレオネについて。
シオラレオネは、1991年~2002年まで、ダイヤモンドの鉱山の支配権をめぐって、政府軍と、反政府勢力の革命軍(URF)による内戦が続いていた。URFという組織は、当初は、「白人の言いなりになっている政府の打倒」を掲げていたが、次第に政治性は影をひそめ、略奪・暴行を繰り返す集団になっていった。
URFに襲われた村の住民たちの多くは殺害され、体力のある男はダイヤモンド採掘場に連れて行かれ、強制労働をさせられた。恐怖心をうえつけさせるためなのか、そのうちの何人かは手や足を切断された。襲われた村の子供たちは、URFの兵力として、少年兵に仕立て上げられた。なんの罪もない無垢な子供たちが麻薬漬けにされ、銃を持たされ、人を殺すことを強いられた。かがやく未来のあるはずだった子供たちは、人格まで破壊された。最終的に内戦による死者の数は7万5000人以上であったという。


こうした状況下でストーリーは展開する。
内戦下での人々の悲惨な生活、少年兵のこと、紛争地域のダイヤが武器の購入資金など内戦の財源になっているということ、こうした問題点をきちんと描いているという点で、この映画は社会派な作品といえる。
その上、おもしろいのだ。(悲惨なシオラレオネのことを思うと、「おもしろい」というのは不謹慎な表現になると思うのですが。)
凶暴なURFの襲撃をくぐり抜けながら、隠したダイヤを取りに行くという展開が、スリリングで見ていて飽きることなく、作品の中に引き込まれていった。

主人公のダイヤの密売人アーチャーがローデシア(現ジンバブエ)出身という設定もいいと思う。
ローデシアは、1965年、少数の白人が多数の黒人を支配する国家として独立した。しかし、黒人の抵抗と国際的圧力により、1980年、ジンバブエとなり、白人支配は終わる。そこでアーチャーは国を出て南アフリカにわたり国防軍に入る。アーチャーも自分が生まれた国家の変容に運命を翻弄された一人なのだ。
その後、シエラレオネでダイヤの密売人となったアーチャーは、なんとかアフリカから抜け出したいと思っている。そのための資金が欲しいアーチャーはソロモンの隠したダイヤを狙う。一方、URFの襲撃で家族と離ればなれになってしまったソロモンは、家族を探し当て、少年兵になってしまった息子を奪還したいと思っている。ジャーナリストのマディーは、ダイヤをめぐる取引の不正をあばき、シオラレオネの現状を世界に伝えたいと思っている。お互い、相反する立場にいながら、それぞれを利用しあう。当初は反目し合っていたが、URFの凶暴な攻撃から逃れているうちに、心がつながっていく。
極限の状況下で生死を共にしているうちに、人は共感しあえるのだろう。

途中、考えさせられるセリフがいくつも出てきた。
特に、ソロモンのセリフが心にささった。
白人がダイヤを欲しがるわけはわかる。
だけど、何故、アフリカ人同士が殺し合う?
アフリカ人には何かが足りないという人がいる。
だから白人に支配された方がうまくいくのだ、と。」


つぶやくように言った言葉だが、聞いていて心が痛くなる。

シオラレオネという国は、18世紀の大西洋三角貿易で、白人によって滅茶苦茶にされた国である。
アメリカ大陸での労働力を補うために、シエラレオネなどの西アフリカ地域から黒人奴隷が輸出された。人間であるのに、『黒い積荷』とよばれて、つめられるだけ船に押し込まれて、船で運ばれた。運ばれるのは、サトウキビや綿花のプランテーションで十分働けるような、若くて健康な黒人たちだった。奴隷狩りはアフリカ人のあいだに部族対立を生み出した。負けた部族が奴隷として売られていくのだから。アフリカの部族は、勝つためにヨーロッパから銃を買った。

奴隷貿易によってアフリカが受けた被害は大きい。働き手の若者たちを奴隷として奪われたため、アフリカの発展は阻害された。白人にうまく取り入って強くなった部族と、銃も買えない貧しい部族の間の憎しみ合いが生まれた。

さかのぼっていくと、そこに行きつく。
そして、1991年から約10年にわたった内戦。
さらに、この国は、2014年には、エボラ出血熱に見まわれた。(シエラレオネではようやく2015年11月に終息宣言がだされたが。)

なんで、この国にこんなつらい歴史が展開されるのかと思ってしまう。



2003年1月、 “紛争ダイヤ”の売買を阻止する制度、キンバリー=プロセスを導入
いまだに売買は続いているが、それを阻止するのは消費者である。
シオラレオネは平和になった。
しかし、アフリカにはまだ20万の少年兵がいる。」

エンディングで流れた字幕である。
考えさせられる。

紛争ダイヤの売買を阻止するのは消費者。
この映画で描かれているように、シオラレオネからリベリアに密輸され、そこから輸出され、ベルギーにわたり、インドで研磨され、という過程を経ているうちに、もうそれがどこから来たダイヤなのかはわからなくなる。
だから、キンバリー=プロセスという証明書がついているダイヤを買いましょうということです。

密猟による象の絶滅を防ぐために、象牙製品を買わない、という運動も広まっている。
私自身はおそらく、今後ダイヤやを購入する機会はないだろうし、象牙製品については絶対に買わない。
でも、食料品や日用品など普通に店頭に並んでいる商品についても、消費者として、どういう経緯を経てその製品が店頭に並んでいるのかということも関心を持ちたいと思った。
フェアトレードのマークについても、あまり意識することはなかったけれど、これから注意して商品を見てみようと思った。
微力ではあっても、消費者の意識が高まれば、企業の取り組み方もかわる。

追記:
ソロモンを演じたジャイモン=フンス―は、『アミスタッド』で反乱を起こす黒人奴隷のリーダー、シンケを演じた。マディー役のジェニファー=コネリーは『ビューティフル=マインド』でナッシュの妻アリシアさんを演じた。この映画、俳優もよかったと思います。

『ミケランジェロ・プロジェクト』   低評価のようですが・・。

『ミケランジェロ=プロジェクト』
監督・脚本・製作  ジョージ=クルーニー

出演 ジョージ=クルーニー、マット=デイモン、ケイト=ブランシェット、ビル=マーレイ

2014年のアメリカ映画
日本での公開は2015年11月

近所のTOHOシネマで見てきた。
公開終了間際だったし、平日のアサイチということもあり、館内はすいていて快適だった。
(人気がなかったってこと?)

第二次世界大戦中、ヒトラーに奪われた絵画、彫刻などの貴重な美術品を、「モニュメンツ・メン」として結成された6人の美術専門家たちが奪還するという話。
第二次世界大戦、美術品、マット=デイモン!!!
私としては見に行かないわけがない、というほど興味のある作品だった。
ドイツによるパリ占領、連合軍側によるパリ解放、など、第二次世界大戦中の戦況を、頭の中で時系列に沿って整理しながら、そして、無造作にトラックに積み込まれる名画を見落とさないように、真剣に全神経を集中してみた。
結果はわかっているものの、フェルメールの「天文学者」やミケランジェロの聖母像を無事奪還できた時には、見ていて「ああよかった」と思った。

とても楽しく見ることができ、いい気分で家に帰ってきて、ネットでこの作品について調べてみた。
どうも、映画評論家たちからの評価はあまり高くない。
というか、低評価。

まずは、この点について考えてみたいと思う。

この作品は、ヒトラーという、第二次世界大戦を引き起こし、ユダヤ人の大量虐殺を行い、歴史的な美術品までも破壊しようとした、「悪」に対して、アメリカが戦ったのだという話。
モニュメント・メンとして編成されたのは、美術館の学芸員などの、兵士としてはまったくの素人集団で、彼らは訓練を受け、銃を持ち、命を懸けて、破壊される寸前だった多くの美術品を奪回した。
敗走するドイツ兵に銃で撃たれるなど、2人の犠牲者が出るが、彼らは、このプロジェクトに参加できたことを誇りに思いながら死んでいく。
戦況がドイツの敗北に向かっているから、隠された美術品も次々に発見されていく。
ラストの場面では、美術品が隠されていた岩塩の坑道の入り口に星条旗を掲げて、ソ連軍到着の前に去っていく。
(ソ連は戦争の保障のために美術品を売りさばいて資金に充てようとしていて、アメリカは美術品を持ち主に返還しようとしている、という設定。)
少々、とんとん拍子に行きすぎであり、全体にアメリカ賛美の色調が強い。
低評価なのは、そのせいかなと思った。
しかも、公開の時期が悪かったと思う。
現在の国際情勢の悪化の原因を考えた時にアメリカの責任は大きいから、今時(いまどき)、こんなおめでたい映画をつくっていいのか、と、見ている方は何か釈然としないものを感じるのだろう。



この作品は、80%、実話に基づいて描いているという。
ヒトラーという人物の強欲さはここまですさまじいものだったのかと驚かされた。
「総統美術館」なるものをつくろうと計画し、占領地から美術品を強奪した。
その数500万点以上だという。
さらに戦況が不利になり、退却を余儀なくされる事態になったときに、美術品の破壊を命じた「ネロ指令」を発した。
自分のものにならないなら、破壊してしまうという発想。
ここまで自分勝手な発想があるだろうか?
美術品は自分一人のものではない、歴史的な美術品は、破壊してしまったら、もう二度度ともとには戻らない、ということを、考えもしないのだろうか?



この作品を見て考えさせられたもう一つのことは、美術品にはそれぞれの歴史があるのだということだ。

私は、フェルメールの「天文学者」が当初からルーブル美術館が所蔵しているものだと思っていたわけではないが、それについて、深く考えたことはなかった。
今回、気になって調べてみて、もともとは個人所有のものだったのだと、気づかされた。
「天文学者」は、19世紀末にフランスのロートシルト家(ユダヤ系の金融業者の一族)が画商より購入し、所有していた。1940年のナチス=ドイツのパリ占領の時にドイツ軍に強奪されたが、この映画で描かれているように、「モニュメント・メン」たちの活躍により奪還され、ロートシルト家に返還された。遺産相続のおり、相続税の現物税としてフランス政府に納められ、以後、ルーブル美術館に展示されているという。

ついでながら、この映画では全く登場しないが、「モナ=リザ」はどうだったのかと調べてみたら、16世紀にフランス王フランソワ1世が購入し、フランス王室の所有となり、途中、盗難中の期間もあったようだが、とにかく現在はフランスの国有財産。
さらについでながら、では、ルーブル美術館の作品は第二次世界大戦中、どうであったのかが気になって、調べてみた。どうも、ドイツ軍のパリ占領直前に大事な作品はどこかに隠され、終戦とともにルーブルに戻ってきたらしい。すべて、ひそやかに。
ということは、ヒトラーはルーブルの作品には手が及ばず、主に、ユダヤ人の富豪から美術品を強奪したということか。

文化的に価値のあるものを守ろうという人たちがいたから、今に引き継がれているのだと思う。
その点もふまえて、絵画を見たら、その作品の背後にある歴史にまで思いをはせることができ、味わい深いものになると思う



最後に。
以前、「平和のための戦争はあるか?」という問いを突きつけられて絶句した経験があるが、第二次世界大戦を経験している人類にとって、答えは、「ある。」というしかないと思う。
第二次世界大戦は、ヒトラーという「悪」に対する戦いだった。
「平和」を取り戻すために戦わなければならなかった。
結局、ヒトラーという人物が独裁権を握ってしまった時点で、戦争への道は必定であったように思う。

それでは、21世紀の現在を考えてみたらどうか。
言うまでもなく、戦争は避けなければならない。
いったん始まってしまった戦争を終結させることが、どんなに大変なことかもわかっている。
戦争というものがどんなに人々を不幸に陥れるかも、人類は、歴史から学んでわかっていることである。

何としても、戦争になることは避けたい。
が、ほんとにこの先、大丈夫なのか、と多くの人が不安に思っている。



「ミケランジェロ・プロジェクト」
私はこの映画が好きだし、感想として面白かったと言えるけれど、今の世界情勢を考えた時、作り方が能天気(ノーテンキ)すぎたのかもしれないと思った。
ISがイラクの都市モスルを制圧した2014年6月以降、世界がおかしくなってきている。
こんな状況下でなければ、2014年に制作されたこの映画の評価も違っていたのではないかと残念でならない。
プロフィール

萩谷功枝

Author:萩谷功枝
世界史教師をしています。

映画や本の紹介、最新のニュースから感じたこと、など自分の日常を通して、世界史のことを考えていけたらと思います。

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