『J.エドガー』

2017年5月、トランプ大統領がコミーFBI長官を解任した。
アメリカ大統領はFBI長官をクビにできる、ということをあらためて認識した。
この2者の力関係やFBIという組織について知りたくなり、そこで見たのが、『J.エドガー』。
2011年のクリント・イーストウッド監督作品
主役のJ.エドガー・フーヴァーにレオナルド・ディカプリオ
オススメ度は、面白い映画を見たいという人には★★☆☆☆だが、FBIについて知りたいという人には★★★★☆くらいかな。
老齢のJ.エドガーが回想している場面と若いころ様々な事件に取り組んでいたころの場面の切り替えがわかりにくかったのと、映像の色調が単調と感じたので、やや厳しめな評価にしましたが、FBIがどのようにしてできたのかがよくわかる作品です。

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J.エドガー・フーヴァーは、1924~1935年の間、捜査局長官をつとめ、その後、1935年~1972年までの間、初代FBI長官を務めた。
FBIという組織はこの人によって作り上げられたのだ。
捜査局長官に就任当時のクーリッジから数えると、次のフーヴァー、組織がFBIと改称されてからの、フランクリン・ローズヴェルト、トルーマン、アイゼンハウアー、ケネディ、ジョンソン、ニクソンと8人の大統領に仕えている。
この間48年間。(いくらなんでも長すぎる。)

アメリカではもともと地方自治体の警察が強かった。開拓時代の西部劇に出てくる保安官は郡に所属している。(ちなみに、映画『ダイ・ハード』で活躍するマクレーンは、ニューヨーク市警の刑事です。)
当然、複数の州にまたがる広域事件や、連邦政府の汚職事件、あるいは、テロ、スパイなどに対する国家レベルでの安全保障に関わる事件を担当する組織が必要となり、J.エドガーによって、権限が強化されていったのがFBIなのである。

ストーリーは、司法長官自宅の爆破事件、リンドバーグ愛児誘拐事件を契機に、J.エドガーが捜査の方法を改善し、効率化し、FBIの権限を強めていく課程が描かれている。今では当たり前と思われている指紋などの個人データのファイルの作成や科学捜査の導入などもこの人が確立した。1920年代は犯行現場の保存さえ十分ではなく、現場に到着した捜査官に踏み荒らされていたようだ。
また、誘拐事件は発生から24時間経過すると、広域事件として自治体警察からFBIに捜査の権限が移ることになった。

州警察レベルでは対応できないことが出てくるのは当然なので、FBIのような組織は必要だ。
ただ、注目したいのは、連邦政府に関わる事件との関係だ。
捜査の権限を持っているから、大統領の周辺のことを調べることができる。
J.エドガーは、フランクリン・ローズヴェルト夫人と共産主義者との関係や、ケネディ大統領のセックス・スキャンダルを握っていたようだ。

また、この作品の終盤では、キング牧師の不倫の証拠テープを送りつけて、ノーベル平和賞を辞退させようとした ことも描かれている。(キング牧師はこれに屈しなかったが。)
こうなってくると、脅しだなと思う。

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警察とは、正義を守るための組織であるけれども、政治権力との関係は、切り札の使い方でどちらが強いかは紙一重だ。
フーヴァーが長くFBI長官の座にいすわることができたのは、大統領にとって公表されたくない情報を握っていた からであろうと推測がつく。
トランプ大統領がコニー長官を解任したのは、もうこれ以上ロシアとの関係をほじくりかえしてほしくないから、クビにして、捜査権を失わせたかったからかもしれないと思う。
ウォーターゲート事件のように明らかに大統領の側がまずいことをしている場合には、大統領の方が辞任に追い込まれることになってしまうのだ。

FBI長官と国家権力の頂点にいる大統領。
圧倒的に強い権力を持つのは大統領であるけれど、フーヴァーは、脅しも使っただろうし、大統領は、彼のことをうっかりクビにはできなかった。だから48年もの長きにわたって、捜査局及びFBI長官でいられたのだろう。
(現在は、FBI長官の任期は最長で10年。)
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追記:話はFBIからそれるけれど、地位に居続ける者は秘密を保持し、地位を失った者は、立場も責任もないから、本当のことを暴露する、ということは言えると思う。
今、ニュースで話題になっている加計学園の問題も、前文部科学事務次官の前川さんは、いまは地位も何もないのだから、失うものは何もないと開き直って、本当のことを話すだろう。その認可の過程に「総理のご意向」があったのかなかったのは、言い換えれば、国家権力の圧力があったのかどうかということであり、民主主義の根幹にかかわる問題である。国会での証人喚問が実現するのかしないのか、目が離せない状況になっている。(2017.5..30)

『THE WAVE ウェイヴ』

独裁制は危険な国家体制である。
第二次世界大戦中のドイツの人々が、こぞって「ハイル ヒトラー」と唱和した時代は、間違っていたとしか言いようがない。(とんでもない人物にみんなが従ってしまったのだから。)
そして、第二次世界大戦という悲惨な歴史を体験した人類は、二度と同じ道を選ぶことはない、と思いたい。
が、そんな考えは「甘い」ということをわからせてくれる作品だ。
独裁制は5日で成立する!!!
これはアメリカのある高校で実際におこったことをもと製作されたドイツ映画である。

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ある高校での実習授業。
「無政府主義」、「独裁制」などのテーマのなかから、自分が興味のあるテーマを選択し、それについて、考え、議論し、またそれを模擬体験してみるという講座が始まる。
その教育目的は、そうしたことを体験することで、「民主主義の良さを認識する」ことのようだ。

教師のライナー・ベンガーも最初から「独裁制」の講座をやりたかったわけではない。彼は「無政府主義」がやりたかったのだ。が、別の教師が「無政府主義」をやることから、彼は「独裁制」の講座を担当することになる。
生徒たちも、単位取得目的だけで集まってくる。どうせとるなら、面白そうな講座の方がいい、という程度の動機での参加だ。

当初、生徒たちは、「ドイツでは独裁制はありえないか?」の問いに、「当然だ。時代が違う。」ど答えている。
そして、あまり真剣でない態度での受講が始まる。

最初のコマでの、独裁制の定義や独裁制が成り立つための条件を考えるあたりは、実にいい感じの授業だった。
そのうちに、では独裁制を体験してみよう、ということになり、その授業の中では、教師のライナーを「ベンガー様」と呼び、発言するときは起立して、というルールが作られる。
みんなで歩調をそろえての足踏みをするあたりから、教室全体に一体感が生まれてくる。生徒たちは、ベンガー様の指導のもと、だんだん盛り上がってくる。
「WAVE」というグループの名前をつけ、服装もみんなでお揃いにし、自分たちのあいさつのやり方も作っていく。
この盛り上がりに違和感を感じて歯止めをかけようとしたカロは仲間から排除される。

自信なさげで、スクールヒエラルキーも低そうなティムが生き生きとしてくる。ベンガー様に忠誠を誓うようになる。彼にとって{WAVE}が心のよりどころになってしまったのだ。

実習授業での集団にすぎなかった「WAVE」がだんだんおかしなことになっていく・・・・。

この作品はその過程が実に見事に描かれている。
批判するものの発言を軽んじ、盲従するタイプの者の意見を褒めちぎることで、集団の方向性を操作することは可能なのだ。

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人は、チームで力をあわせた時に一体感、達成感を感じることができる。
スポーツや仕事でチームプレーを行う者は、それを得たいから頑張る、とも言えると思う。
みんな一緒に一つのことに向かってまとまるのは気持ちいい。

しかし独裁制においての一体感は危険だ。

何が違うのか?
それは、メンバーがちゃんと自分の頭で考えているか、リーダーに盲従するだけなのかの違いだと思う。
考えることもせず、批判することもなくなったらその組織は終わりだ。
異分子を排除することで、従うものだけの集団になってしまったら、独裁者の意のままの集団になってしまう。
もう誰にもリーダーの暴走を止めることのできない制御不能の集団になっている。

そうなったら終わりだよ、ということを知ることができる作品だった。

『THE WAVE ウェイヴ』  2008年の映画
2015年のノルウェー映画で津波に襲われる恐怖を描いた『THE WAVE ザ・ウェイブ』という作品があるので要注意です。
私は間違えてしまいました。これをきっかけにNetflixを利用することを始めました。1時間46分の作品を、病院の待ち時間を利用して、スマホ画面で観ました。

『国際市場で逢いましょう』

作品は、老齢になったドクスが立ち退きを迫られている店舗を頑固に守り続け、売却に応じないところから始まる。その理由とタイトルの意味は物語の最後でわかる。

場面は一転、ドクスがまだ幼かった頃に遭遇した朝鮮戦争の興南の退却の場面となる。
朝鮮戦争における興南の退却がここまで悲惨だったとはこの映画を見るまで知らなかった。

朝鮮戦争(1950~53)はめまぐるしく戦況が変わった戦争である。北朝鮮軍の韓国侵入を発端に、一時、韓国勢力は南端の釜山付近にまで追い込まれてしまう。そこでアメリカ軍を主力とする「国連軍」が仁川(インチョン)上陸する。これにより今度は北朝鮮軍が中国国境付近位まで押し戻されるのだが、ここで中国が北朝鮮支援にまわり「義勇軍」(実際は中華人民共和国人民解放軍)を派遣する。この勢いでアメリカ軍は北部の都市、興南からの退却を余儀なくされた。この時、退却するアメリカ軍の兵士だけでなく、興南の住民たちも貨物船ビクトリー号に乗船しようとして港に殺到した。中国軍に占領され、興南が戦火にさらされる前に、南に避難しなければならなかったのだ。

穏やかに暮らしていた土地が戦火にさらされるという理由で、家族ぐるみで避難しなければばらないということがどれほど大変なことかと思う。
赤ん坊を背負っている母親。ドクスもまだ幼い少年だというのに妹マクスンの面倒を見させられる。「マクスンの手を離すな!」といわれてもあの混乱の中では無理だ。
結局、妹マクスンと離ればなれになり、彼女を探しに戻った父親も行方不明になってしまう。
残されたのは母親とドクスと幼い妹と赤子だった弟。
彼らはなんとか乗船でき、避難先の釜山(プサン)に落ち着くことになる。

ドクス達家族は「コップンの店」を営んでいる叔母のもとに身を寄せ、貧しいながらも落ち着いた生活を取り戻していく。
が、ドクスは妹のマクスンを守りきれなかったことに対する悔恨をひきずっている。
さらに父親から言われた「いいか、これからはお前が家長だ。家族を守れ。」という言葉がが重く心にのしかかっている。

儒教の価値観が強い韓国では、家長(それが父親ではなく長兄であっても)の責任は重いのだなと思った。そして、ドクスは責任感の強い、やさしい人物なのだ。
その後、ドクスは弟の学費を捻出するために、西ドイツの炭鉱に出稼ぎに行き、さらに、妹の結婚式の費用のためにベトナム戦争に志願する。

炭鉱も戦場も危険この上のない現場だ。

ラストは老齢になったドクスが子供や孫たちと過ごしている冒頭の場面に戻る。
ドクス、本当によく頑張ったね。と、ねぎらいの言葉をかけてあげたい気分になった。

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それにしても。

朝鮮戦争では核以外のあらゆる兵器が使用され、戦場は南北の全域にわたったため、双方の住民は戦火に追われた。軍隊の死傷者は中国軍・米軍を含めて南北それぞれ100万人をこえたほか、住民の犠牲者も200万人をこえた。  
(世界史A 山川出版社)


教科書に掲載されている、爆破された漢江の橋を渡って南に避難する「朝鮮戦争の難民」の写真、そしてこの映画での興南の退却のシーンをみて、戦争がいったん始まってしまうと、巻き込まれた人々がいかに悲惨な状況になってしまうのかがよくわかった。

2017年5月、韓国の大統領選挙で当選した文在寅(ムンジェイン)の両親は、興南の撤退の際に貨物船ビクトリー号に乗船した避難民だという。
ムン氏はこの映画のシーンを格別の思いで見ただろうと思う。(この作品を見ているかどうかは知らないけれど。)

朝鮮半島が再び戦火に陥ることがありませんように。
核開発を続ける北朝鮮に対しては、何が何でもそれを放棄しろ、と強く思う。

『国際市場で逢いましょう』
2014年の韓国映画。
ドクス:ファン・ジョンミン
プロフィール

萩谷功枝

Author:萩谷功枝
世界史教師をしています。

映画や本の紹介、最新のニュースから感じたこと、など自分の日常を通して、世界史のことを考えていけたらと思います。

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