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言葉の力   ワイツゼッカー元ドイツ大統領を偲んで

1月31日、元ドイツ大統領ワイツゼッカー氏が死去した。(享年95歳)

本棚の奥から「言葉の力 ワイツゼッカー演説集」  永井晴彦 編訳  岩波現代文庫

を引っ張り出してきて、ゆっくり読み返してみた。

いくつもの有名な演説が収められているが、最も有名なのは、1985年5月8日、ドイツの敗戦40周年にあたって西ドイツの国会での、「荒れ野の40年」と呼ばれている演説である。

1985年と言えば、東西冷戦終結の4年前、まだ、ドイツが東ドイツと西ドイツに分かれていた時期である。

この演説には、埋もれさてしまうにはもったいない珠玉の言葉がちりばめられていた。

混迷する現代の社会に、道筋を示してくれるようなフレーズもあった。

以下、ワイツゼッカーの演説および彼の考え方を紹介したいと思う。



まず、ドイツにおける「大統領」について少々、説明しておきたい。

現在のドイツの首相が女性のメルケルさんなのは知っていても、現在のドイツ大統領がだれかを知っている人は少ないだろう。(実は、私も知らなくてさっきネットで調べた。ヨアヒム=ガウクという人だった。)

ドイツのおいては、実際の政治を担っているのは首相で、大統領は、象徴的な存在である。
皮肉っぽく、「演説だけが仕事」、と言われることがある。

〔これは、第2次世界大戦以前のドイツ(ヴァイマル共和国と呼ばれていた。)が、大統領に大きな権限を持たせたことで混乱が生じたことへの反省からである。
(ヒンデンブルク大統領は少数派内閣を短期に何度も変えた後、結局、ヒトラーを首相に任命した。)〕

こういう経緯があっての、現在のドイツの大統領の存在がある。
そんな立場で存在意義があるのか?と問われれば、大いにある、と答えることができる。

ワイツゼッカーの「荒れ野の40年」は、ドイツの人々が、世界の中で、どのような立場で、どのような考え方で生きていったらいいのかという道筋を示してくれた演説だと思う



第2次世界大戦を引き起こした国、ヒトラーという最悪の人物を生み出してしまった国ドイツ。

ドイツの場合、戦争の罪をヒトラー一人に負わせてしまうことができる。
ヒトラーは悪である。彼が権力を持っていた12年間は異常な年月だった。
善良なドイツの人々は何もできなかった。
・・というような言い方はできると思う。

しかし、ワイツゼッカーは言う。

「ユダヤ人という人種をことごとく抹殺する、というのは歴史に前例を見ません。・・・・。
この犯罪に手を下したのは少数です。公の目には触れないようになっていました。
(しかし。)目を閉ざさず、耳を塞がずにいた人々、調べる気のある人たちなら、(ユダヤ人を強制的に)移送する列車に気づかないはずはありませんでした。・・・犯罪そのものに加え、余りにも多くの人たちが実際に起こっていたことを知らないでおこうと努めていたのが現実であります。・・・。」
  
過去に目を閉ざす者は、結局のところ現在にも盲目となります。非人間的な行為を心に刻もうとしないものは、またそうした危険に陥りやすいのです。」



心に刻む」 ・・・深い言葉だと思う。

私たち、日本人は中国や韓国から、戦争の責任の追及や謝罪を求められると、もう、いい加減にしてくれと思う。
戦後に生まれた私たちに責任はない、と言いたくなる。

だが、だからこそ、ワイツゼッカー―の言葉を、もう一度、かみしめて考えたいと思う。

「歴史の真実を直視せよ。そうすることが心からの和解に通じていく。
若い世代にかつての出来事に責任はなくても、そこから生じてくることには責任がある。」

まさに、そうなのだと思う。
戦後に生まれた私たちには、戦争の責任はないけれど、過去に、日本が他国に対してどのような行為に及んだのかは心に刻んでおかなければならない。

こうしたことを話題にすると、自虐的歴史観だ、自国の歴史に誇りを持てる歴史教育をしろ・・ 云々。ということになりやすい。
論争をする気はない。
中国・韓国をはじめとする周辺諸国とのより良い関係を築いていきたいと思うのだ。




戦後70年の今年、8月の終戦記念日に合わせて、安倍首相は戦後70年談話をするという。

どんな言葉で語るのだろうか。

口先の「謝罪」が不信の解消には役立たない、というワイツゼッカーの言葉は肝に銘じておいてほしい。

過ぎ去った過去はどうにもならない。でも、これからのことは、私たちの世代に責任がある。

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萩谷功枝

Author:萩谷功枝
世界史教師をしています。

映画や本の紹介、最新のニュースから感じたこと、など自分の日常を通して、世界史のことを考えていけたらと思います。

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