『ブリッジ オブ スパイ』

『ブリッジ オブ スパイ』

2015年のアメリカ映画。日本での公開は2016年1月。
今年のアカデミー賞作品賞にノミネートされています。
(私は、この作品がとってくれればよいなと思っています。)

監督:スティーヴン=スピルバーグ
出演:トム=ハンクス


東西冷戦中の1960年前後の出来事を描いた、実話をもとにした作品です。
スパイ、U2型機撃墜事件、ベルリンの壁構築・・など、世界史教師の私が、ほっておけないキーワードが満載で、しかも、スピルバーグ監督、トム=ハンクス主演ならば、はずれはないだろうと信頼して、わくわくしながら、近所のイオンシネマに行ってきました。
結果は最高。評価は★★★★★です。


簡単なあらすじ:
ドノヴァン(トム=ハンクス)は、妻や子供を大切にするごく普通の家庭人である弁護士です。そんな彼が、FBIに逮捕されたソ連のスパイの弁護を依頼されました。

ソ連のスパイの弁護なんて引き受けたくはない仕事です。
東西冷戦のさなかのこの時期、ソ連に対するアメリカ国民の憎悪はこの上ない状態です。
そんなものを引き受けたら、家族にまで危険が及ぶ、とドノヴァンは考えます。
しかし、「アメリカは敵国のスパイに対しても、弁護士をつけて公正な裁判をする国なのだ」ということを示すことが国益につながる、という説得に丸め込まれて、無理やり弁護を引き受けさせられます。
スパイに対しても公正な裁判が行われたという形がとられればよいわけで、判決はむしろ死刑の方がよいと考えている上層部からの依頼です。
弁護を引き受けたドノヴァンは、判決を死刑から禁固刑に減刑させることに成功します。
しかし、このことで人々からの反発を受けます。通勤電車の中では冷たい視線を浴びせられ、さらに自宅に銃弾を撃ち込まれてしまうほどでした。

当時の一般市民の反ソ感情の様子がよくわかりました。
冷戦時代、アメリカの人々はいつか核戦争が勃発するのではないかという恐怖に怯えていたのです。

前半は、裁判をめぐる展開が中心です。
後半になると、これにU2型機撃墜事件とのベルリンの壁構築がからみ、事態は複雑な様相を呈してきます。
U2機事件でソ連につかまってしまったアメリカ人パイロットと、ベルリンの壁構築の際の混乱で西ベルリンに戻れなくなり、東ドイツに拘束されてしまった学生の2人を、ソ連のスパイと交換するという2対1の交換を交渉するという役割を任命されてしまうのです。

そして.....。




この映画の見どころの一つは、トム=ハンクスが演じるドノヴァンの人間臭さでしょう。
危険な東ベルリンに乗り込んで、脅しにも屈せず、粘り強く交渉にあたり、信念を貫きます。
私は、ドノヴァンに「胆力」を見ました。
交渉人に必要なのは、一歩も引かない覚悟で臨む「胆力」ではないでしょうか。
おそらく普段のドノヴァンは、自分の要求を一方的にゴリ押しするような人物ではないと思います。(推測)
しかし、人の命がかかっているのです。妥協することはできない、と彼は思っていたのでしょう。
ぎりぎりの状態に追い込まれながらも、強い表情のドノヴァンに感動します。


アメリカにしてみれば、パイロットは、撃墜された時に脱出せずに死んでくれた方が、つかまってしまうよりは都合がよかったでしょう。一般の人ですら、なんでおめおめと生き残ったのだ、というような気持ちをパイロットに対して持ちます。
しかし、ドノヴァンは冷たい視線を浴びせられたパイロットに対しても「気にするな。」とやさしく肩をたたきます。
また、アメリカにしてみれば、国家機密を握っているスパイの交換の方が重要で、それに比べたら、一人の学生の運命なんてどうでもよかったかもしれません。
しかし、ドノヴァンは、この何の罪もなく、東ドイツに拘束されてしまった学生の救出にもこだわります。妥協せずに、最後の最後まで粘ります。


今回もまた、「いい人しか演じないトム=ハンクス」の魅力を最大限に発揮したなと思います。
彼の演じる「いい人」とは、直面する課題に対して、悩み苦しみながらも、誠実に向き合っていくという人物です。それはけっして非の打ちどころのないエリート的な人物などではなく、ごく普通の一般人として存在しています。そして酷寒の東ベルリンで、高級コートを奪われてしまい、コートなしで、鼻をかみながら交渉を行うような、ちょっとしたカッコ悪さも醸し出しています。まさにそれがこの人の持ち味なのだと思います。




この映画を見て、私は「スパイ」について考えさせられました。
調度、NHKで、「新・映像の世紀、世界は機密と嘘に覆われた」の放映があったばかりです。
それによれば、1962年のキューバ危機の際、アメリカでは、空軍参謀総長ルメイが、先制核攻撃を大統領に進言していたということでした。ルメイは「皆殺しのルメイ」と恐れられていた人物で、彼の計画は、ソ連に7000メガトン(広島型原爆46万個分)の原爆で攻撃するというものです。
これをケネディ大統領は却下します。その判断を支えたのは、ペンコフスキーというスパイからもたらされた機密情報でした。
「先制攻撃をしても報復は避けられない。」というペンコフスキー文書のおかげで、大統領は冷静な判断ができたということです。

彼の情報により、世界は破滅を免れました。
しかし、危機の半年後、ソ連につかまっていたペンコフスキーは処刑されてしまいます。


ペンコフスキーは、ソビエト軍参謀本部大佐でしたが、権力闘争に明け暮れる指導者に絶望し、ソ連の最高機密をCIAに渡すスパイになりました。
彼の場合、自分からスパイの道を選んだとことになるでしょう。
もちろん、アメリカからの誘いがあって、裏切り者になったのでしょうが。


この映画に出てくる、U2機のパイロットの場合、全くの命令で、スパイ飛行をやらされます。
数人のパイロットが小部屋に呼ばれて、「優秀な君たち」に以下の任務を命じる、ということで、スパイ飛行を任命されます。拒否はできません。万が一、敵に捕まりそうになったときのために、自殺用の青酸カリの毒針がついたコイン型の容器ももたされます。

核開発競争が激しく繰り広げられたこの時代、相手がどこまでのレベルを持っているのかという情報を把握しなければならなかったので、スパイ行為や偵察飛行は不可欠だったのでしょう。

冷戦とはそんな時代でした。


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プロフィール

萩谷功枝

Author:萩谷功枝
世界史教師をしています。

映画や本の紹介、最新のニュースから感じたこと、など自分の日常を通して、世界史のことを考えていけたらと思います。

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