『マインド・コントロール』 岡田尊司著

Facebook上の友達の稲葉さんからの情報で、またまた面白い本に出会うことができました。紹介されていたのは、
『マインド・コントロール』 増補改訂版  岡田尊司著 文春新書 2016年4月発売。

私は記事を見て、すぐに地元の図書館に行って探したら、新書版ではないもともとの単行本がありました。増補改訂版に何がどう増えているのかは把握していませんが、非常に興味深く、歴史を考える上でも、日常の人間関係を考える上でも、はたまた、子育てを考える上でも参考になる内容だと思いました。
マインド・コントロールという言葉は、オウム事件(1995年)の時に、流行語となりよく使われた言葉なので、タイトルを見た時に、そのころに書かれた本なのかと思いましたが、ちがいました。新書版ではない元の単行本も、2012年出版という、比較的新しいものでした。
「マインド・コントロール」とは、あの時はやり、その後すたれてしまった、というような言葉ではないのです。それ以前から研究されていて、現在においても、「何故、テロリストが作られてしまうのか」という問題を考える場合、重要なカギを握る言葉なのです。

「マインド・コントロール」とは嫌な言葉だと思います。
人の心は本来、その人固有のものであり、自由であるべきものです。
もちろん、人は一人では生きられないのだから、立派な人、嫌な奴....など、少なからず、周りの人の影響を受けて生きるものではありますが、心の在り方は、その人個人が様々な出会いを経験しながら、どう考え、どう受け入れるかによるもので、決して、他人によって制御されてはならないと思うのです。

しかし、この本を読んでわかったことは、人の心は操ることができるということです。
ある条件のもと、悪意を持ってマインド・コントロールをやられたら、並みの人間ならその罠にはまってしまうだろうと思えました。恐ろしいことです。

この本は、精神科医である著者が、今までの心理学・精神医学での研究事例を紹介しつつ、具体的な、2001.9.11の同時多発テロや、オウム事件、霊感商法など、様々な具体的事例をとりあげながら、そこにどんなふうにマインド・コントロールが入り込んでいているかを述べていて、わかりやすく説得力がありました。
いくつか印象に残った部分を紹介します。
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まず、印象に残ったのが「トンネル」という言葉。
「トンネルは、細く長い管状の通り道で、外界から完全に遮断されている。.....そこを進んでいく者は、外部の刺激から遮断されると同時に、出口という一点に向かって進んでいくうちに、いつの間にか視野狭窄に陥る。」
テロリストに志願してきた若者を本物のテロリストに仕上げるには、この原理を利用すればよいのだそうだ。
与える情報量を極めて少ない状態に置いておくと、不安な心理状態になり、情報を渇望する状況に陥る。
そうした状況の下で情報を与えると、仮にそれが間違ったものであったとしても、それに飛びついてしまう。騙すのは簡単なのだ。
さらに、その若者を「英雄」に仕立て上げていく。それはテロを実行する以前から始められていて、そうしていくうちに後戻りできなくなるのだそうだ。

では、どのような人がマインド・コントロールに陥りやすいか。この本ではそのカギとなる言葉として、「依存性パーソナリティ」を挙げていた。
マインド・コントロールに陥ってしまった人は、「自分で主体的に考え、判断し、行動するという力を大幅に低下させてしまっている。些細なことをするのにも、自分を支配している人間の顔色をうかがい、意のままになる。」
こうした状況になりやすいのが「依存性パーソナリティ」の人なのだ。
つまり、だれもが、マインド・コントロールに陥ってしまうわけではないのだ。
「その人のパーソナリティの特性、情報コントロールや意思決定にかかわる脳の機能、現在および過去に受けてきたストレス、心理的な支えといった要因に左右される。」のだ。
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と、まあ、私が読んだ本の要約などしようものならつらつらと長くなるばかりなので、この辺でやめます。興味のある方は、是非どうぞという、オススメの本です。

で、思ったことと。
先ほどの「トンネル」の原理は、うまく使えば、たとえば、スポーツ選手の育成に利用できます。不要な情報を遮断し、雑念をもたせない方が、目的達成のためには効果的でしょう。しかし、子供をそのような手法で育てるようとするのはとても危険です。スポーツだけで人生を生きぬけるわけではないのですから。
魔の手が忍び寄ったとしても、マインド・コントロールに陥らないような人格を形成するためにも、「その子自身が試行錯誤し意思決定するための時間を十分にあたえる必要もある。」ということです。

もう一つ、この本を読んで考えさせられたこと。
マインド・コントロールとは、要は人を騙すことであり、当たり前のことなのですが、世の中には、騙す人と騙される人がいるということです。
そして、人を騙そうとする人間、つまり「悪しきマインド・コントロールに走るものは、他者を支配する快楽が強烈なのに比して、それを思いとどまる共感や思いやりを希薄にしか持たないと言える。」ということです。
人を騙す奴とは、自己愛が強く、威張ったり、強がったり、平気で弱い者いじめができる人間なのです。
オウム事件の麻原彰晃がそうであり、純粋で知的な高学歴の若者たちが、ころりと騙されてしまったということが過去にあったのです。
今後も麻原のような人格の人間が出現する可能性はゼロではありません。だとしたら、そのような人間に騙されないようにすること、そういう人間に権力をもたせないように監視することが大切になってきます。

もし、権力側がマインド・コントロールを使ってしまったらどういうことになるか。
この本の後半に、「パブロフの犬」で有名な条件反射の研究を深めたパブロフ博士のその後のことが書かれていました。彼は、彼の研究に興味をもったレーニンに厚遇され、ソ連で研究を深めたのです。その成果は、「洗脳」に利用されました。肉体的苦痛を与え続け、そのあとに快楽を与える、このような手法で人間の思想を変えることができるということでした。
あってはならないことです。

悪意を持って一定の条件を整えれば、マインド・コントロールは可能である。
そのことがこの本を読んでわかりました。
しかし、そんなことを許す社会であってはならない。このことは肝に銘じておきたいと思います。
(拷問はもちろん、精神的苦痛を伴う尋問や教育において体罰が禁じられているのも、こうした事情が背景にあるのかなとふと思いました。)
個人レベルでいうならば、そんなものに陥らないような人格形成をめざさなければならない。心からそう思いました。

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萩谷功枝

Author:萩谷功枝
世界史教師をしています。

映画や本の紹介、最新のニュースから感じたこと、など自分の日常を通して、世界史のことを考えていけたらと思います。

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