『死刑台のメロディ』

映画を見る目的はなんだろう。
おもしろいから、ワクワクしたいから。あるいは励まされたい、見終わった後、やさしい気持ちになりたい、などなどいろいろあり、人それぞれで、見る作品の選び方も違ってくると思う。
私の場合、映画を見て、知りたい、考えたい、という動機が多く、歴史を題材にした作品を選ぶことが多い。
(仕事柄、そういうことになる。)

この作品は、アメリカ史における汚点ともいうべき冤罪事件サッコ・ヴァンゼッティ事件を題材にしたものである。
サッコとヴァンゼッティは全く身に覚えのない殺人事件の犯人として逮捕され処刑された。
なぜ彼らが犯人にされてしまったのか。
それは、彼らがイタリア系移民で社会主義者であったから。

1920年代のアメリカは、フォード社による自動車の普及などによって経済は活況を呈し、「永遠の繁栄」と呼ばれる経済繁栄を謳歌した。まさに『グレート=ギャッツビー』の時代なのであるが、それは伝統的な白人社会、とくにWASPにとっての繁栄で、東欧や南欧系、あるいはアジア系の移民はアメリカ社会の中で差別された。
また第一次世界大戦末期のロシア革命により成立したソ連の影響を恐れて、社会主義者は弾圧された。
この作品とは直接関係ないが、K.K.Kという南北戦争後に成立した反黒人組織が、1920年代に復活し、黒人のみならず、ユダヤ人、カトリック、社会主義者を襲撃して、暴行・殺人を行ったことも、思い起こしておきたい。
そういう時代だった。輝くような経済繁栄の「光」に隠れた「影」の部分で、差別や弱者排撃が横行していたのだ。

『死刑台のメロディ』は、2人の逮捕の場面から始まり、その後の捜査、裁判の展開が主な内容であるが、全編を通じて、ひどいな、理不尽だな、という場面が続く。
裁判に対して、何を言っても無駄とあきらめて何も抵抗しないサッコと、最後まで無実を訴え続けるヴァンゼッティの態度は対照的だった。結果は、どちらの姿勢で臨もうが同じだったわけで、頑張り続けたヴァンゼッティが、「君が正しかった。」とつぶやくのも、ひどくむなしかった。

見終わって、映画の使命としてもう一つ大事なことがあるということに気づいた。
それは、歴史的な事実をこうした作品にして残すということである。
『死刑台のメロディ』は、無実の者を犯人にでっち上げ、さらに抗議活動が盛り上がる中で死刑を執行したという、アメリカ史上の汚点ともいうべき出来事を、批判をこめて描いた作品である。こうした作品があることで、人は忘れずにいることができる。

二人が証拠不十分のまま処刑されたのが1927年。今から90年前のことである。

2017年の現在、テロの恐怖、グローバル化の反動で、移民に対する反発が世界各国で高まっている。
今朝のニュース番組では、オランダで反イスラムを掲げる極右政党の自由党が第1党にはなれなかったことを報じていたが、この後続く、フランス、ドイツの選挙では、どちらの方向に進んでいくのか、先が読めない。
こうした時期であるからなおさら、差別・偏見を背景に起きてしまったこの事件を、自戒を込めて見つめなおすのもよいと思った。

映画を楽しく見たい人にはオススメ度ゼロの作品だが、映画を見て、知りたい、考えたいという人には★★★★★の作品。最後まで興味深く集中してみることができる。
(ただし、近所のTSUTAYA情報でいうと、この作品は、2か月ほど前には確かに店舗に置いてあり、たまたま見つけて借りて見たのだが、今回ブログを書くにあたって確かめたいことがあり、もう一度借りに行ったら置いてなかった。店内の検索機で調べたら、この店舗にはなく「お取り寄せ可能」にはなっていたが、面倒くさいのでやめた。旧作映画が充実していないTSUTAYAもあるので、ユーカリが丘店は比較的充実していると思っていたのだが、やはり商品管理はしているようで、動きのない商品はどんどん外しているようだ。)

『死刑台のメロディ』 1971年のイタリア・フランスの合作映画
監督:ジュリアーノ・モンタルド
主題歌:「Here’s To You」

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プロフィール

萩谷功枝

Author:萩谷功枝
世界史教師をしています。

映画や本の紹介、最新のニュースから感じたこと、など自分の日常を通して、世界史のことを考えていけたらと思います。

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