『シカゴ7裁判』

2020年に公開のアメリカ映画。
コロナ・ウイルスの流行により、配給のパラマウントは劇場公開を断念し、Netflixに権利を売却。
日本では2020年10月から配信(配信に先駆けて一部劇場で公開)
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1968年8月、イリノイ州シカゴで、ベトナム反戦運動の集会・デモが、警察と衝突し、数百名の負傷者を出す暴動に発展してしまった。
その責任を問われ、デモに参加した各グループのリーダー的存在だった7人は、暴動を扇動したとする罪で法廷に立たされることになる。
しかし、この裁判があまりにも理不尽。
法廷ものは私の大好きな映画のジャンルだが、今まで見た中で、この裁判のホフマン判事は最低の裁判官だった。(ホフマンのひどさがこの作品での見どころ。)
訴えられたのは、「シカゴ・セブン」と呼ばれる7人。
民主社会学生同盟のトム・ヘイデン(エディ・レッドメイン)、レニー・デイヴィス。
青年国際党のアビー・ホフマン、ジェリー・ルービン。ベトナム戦争終結運動のMOBEのリーダー、デヴィッド・デリンジャー、さらにリー・ワイナー、ジョン・フロイスら7人。これに、ブラック・パンサー党のボビー・シールも加えた8人の裁判が展開される。
暴動を誘発した責任は、デモの側と警察の側のどちらにあるのか?
デモのリーダーたちは、参加者の安全に十分配慮したか?
などが争点。
裁判の展開は、映画を見て楽しんでもらうとして、このブログでは、デモについて考えてみたい。
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デモは政治を動かす。
1960年代は「若者」の政治参加が活発な時代で、アメリカでは、公民権運動やベトナム反戦運動が社会を大きく変えた。
フランスでも1968年、学生や労働者を中心に改革を求める運動が全国に広がり、「五月危機」と呼ばれる事態に発展し、翌年のド=ゴール退陣につながった。
日本でも1960年の安保闘争や、1968年~70年の全共闘運動学生紛争などが思い浮かぶ。もっと歴史をさかのぼると、大正政変がある。
大正政変の展開を説明すると少々長くなるので、ここでは省略するが、1913年、第三次桂内閣に抗議する数万の民衆が帝国議会を取り囲こみ、桂首相を辞任に追い込んだ出来事である。桂退陣の背景には、もうこれ以上事態が大きくなると、暴動・内乱に発展し危険だとする判断があったという。
日本では、これが民衆の直接行動が内閣を倒した最初の事例である。
ここだなと思う。
民衆の抗議で政治を変えることができるのは、まともな国での出来事なのだ。
世界の歴史の中では、抗議の声が権力側による弾圧によりつぶされ、流血の惨事となった事例は多い。
例えば、映画『遠い夜明け』に描かれている南アフリカでのソウェト蜂起(1976)。
黒人学生1万人と警察隊が衝突し、500人が死亡、約2000人が負傷した。これも当初は学生たちが計画した平和的な抗議活動だった。
無抵抗の学生たちに銃弾が浴びせられ、多くの黒人学生が死んだ。
この国がアパルトヘイトを撤廃するのは、その後、15年の年月を待たなければならなかった。
2014年の香港の雨傘運動も非常に盛り上がったけれど、香港政府はデモ側の要求をすべて拒否し、結局この運動をつぶした。
その後の香港では、2020年に香港国家安全維持法が成立し、活動家の周庭が逮捕され、裁判で実刑判決を受けた。
民主化を求める学生のデモを軍の出動によりつぶした天安門事件(1989)を挙げるまでもなく、国家権力の強い中国では、民衆の抗議活動はなかなか成功しない。
今日(2021.3.4)も、ミャンマーでの軍事クーデターに反対するデモのニュースが報道されていた。アウンサン・スーチー氏から政権を奪った軍事政権は、デモを武力でつぶそうとしている。ここ数日、事態はどんどん悪化して、死者の数は日を追うごとに増えている。
ニュースの映像を見ていると、かなり心配な状況。(けが人を救護する医療従事者を警察がこん棒でたたいていた。なんで?)
数週間前は平和的なデモだったのが、あっという間に悲惨なことになってしまった。
それでもミャンマー人たちは命懸けでデモに参加している。
かつての軍事独裁時代の不自由さを知っているから逆戻りは何としても防ぎたいのだ。
もう、ミャンマー自体では収拾できないのではないかと心配している。
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平和的なデモ活動と暴動は紙一重だ。
この『シカゴ7裁判』も、平和的に行おうとしたデモが、どうして暴動に発展してしまったのかが争点だった。
昨年全米で盛り上がったBLM運動は、特にリーダーがいるわけでもなく、自然発生的に各地で参加する人が増えていき、世界各地に広がった。一部、混乱が生じた事例もあったが、暴動に発展しないような配慮があったように思う。
21世紀の今、人類は戦争や暴力によらない問題解決の方向を目指していかなければならないのだと思う。
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