『OSLO/オスロ』

『OSLO/オスロ』
2021年 アメリカ
スピルバーグが製作総指揮をつとめ、アメリカの衛星・ケーブルテレビ局HBOから2021年5月29日からリリースされ、日本では.U-NEXTで6月28日から配信されている。
オスロ


1993年9月、ワシントンで、長年の敵対関係にあったイスラエルとPLOとの間で、パレスチナ暫定自治協定が調印された。
クリントン大統領を挟んで、イスラエルのラビン首相とPLOのアラファト議長が握手を交わすこの写真は有名である。
この協定は「オスロ合意」とも呼ばれる。それはこの協定の成立の背景に、ノルウェー外相ホルストの仲介があったからであるが、そこに至るには、1組のノルウェー人夫婦が進めたイスラエルとPLOとの秘密交渉があった。
この作品は、ノルウェー外務省の外交官モナと、その夫の社会学者テリエ・ラーセンを中心に、この秘密交渉に関わった人々の気持ちを丁寧に描きながら、「オスロ合意」が成立した過程を描いたものである。
パレスチナ暫定自治協定

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パレスチナ問題をざっとおさらいしておきたい。
1948年のイスラエル建国により、そこに住んでいた100万人のパレスチナ人は難民となった。さらに、1967年、第3次中東戦争により、イスラエルはガザ地区やヨルダン川西岸を占領したため、さらに100万人もの難民が発生した。
ガザ地区ではそこに残るパレスチナ人と、軍事占領して入ってきたイスラエル兵との間で、何度も武力衝突が起こっていた。

作品の中で何度もモナの中でフラッシュバックする光景がある。
ガザ地区で見た二人の少年の向き合う姿だ。
石を投げつけようと構えるパレスチナ人の少年、銃を構えるイスラエル兵の少年。
「殺す」「殺される」という、極限の空間。
パレスチナ人に生まれてきた、イスラエル人に生まれてきたというだけで、互いを憎しみ合わなければならない2人の少年が、立ちすくんでいる。
オスロ 少年

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こんな光景はあってはならない。
何とかしたい、とモナは強く思う。
そこで、モナとテリエが思いついたのが、イスラエル・パレスチナ双方に良好な関係を持つ自分たちが仲介役となって、和平交渉を進めること。
それは簡単なことではない。
イスラエルもパレスチナも、公人同士が直接会うことは禁止されていた。

しかし、モナとテリエは双方の交渉人を秘密裏にオスロに招き、交渉の場を設ける。

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世界の紛争を見るたびに、何とかならないものかと思う。
何かしたい。この夫婦は、それを現実に何とかしようとした。
そして、パレスチナ暫定自治協定の調印を実現した。

しかし。
作品で描かれているようにオスロ合意の成立まではこぎつけたものの、その後はどうなったのか?
エピローグで語られているように、実は、うまくは進展しなかった。
調印したイスラエル首相ラビンは、1995年、和平反対派のユダヤ人青年により暗殺された。
後任に、対パレスチナ強硬派のネタニヤフが首相になると、対立はますます深刻になった。
パレスチナ側がテロを止めるという姿勢を完全に示さない限り、イスラエルは国民の安全を守るためにテロと戦うという理屈だ。
パレスチナもハマスが勢力を強めている。ハマスは武装闘争によるイスラム国家樹立を目指した武装組織である。ハマスはそもそもイスラエルを承認していない。
しかし、ハマスがイスラエル側を攻撃したら、軍事力で勝るイスラエル側は、戦車を出動させ、ガザ地区へ空爆をする。倍返しをくらうのだ。

今年(2021年)の5月にも、イスラエルがパレスチナのガザ地区に空爆を続け、ビルから黒煙が立ち上っている映像が何日間もニュース映像で流れた。
ニュースを見るたびに、ガザ地区に住んでいる人たちが気の毒で仕方がなかった。
イスラエルにしたら、パレスチナ側が先に仕掛けたという理屈だろう。

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ハマスは、オスロ合意に反対している。このため、オスロ合意はパレスチナ人の間にそれを支持する人と反対する人との間に分裂をもたらしてしまった。
パレスチナ問題は容易に解決できない。
しかし、私は、パレスチナ問題解決の糸口は、オスロ合意が示した双方の歩み寄りだと思う。
武力を用いた抵抗は、事態をさらに悪化させるだけだ。

地中海東岸の美しい土地が、人々が安心して住めるようになって欲しい。

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最後にこの作品を、見て思ったことを書きたい。
それは、モナ&テリエ夫妻の、イスラエル・パレスチナに平和をもたらしたいという思いの強さが、対立する2つの勢力の歩み寄りをもたらしたということ。
そして、この夫婦は、物事の進め方をよくわかっているということ。
交渉や話し合いをまとめるには何が必要か?
国家・民族を背負っての交渉も、まず第一歩は、窓口となる人間同士の信頼関係だ。
お互いの要求を主張しあっているだけでは交渉は決裂する。
どこかで妥協点を見つけなければならない。

この夫婦は、ルールを設ける。
会議室のなかに入るのは、イスラエル・パレスチナから来た2人ずつの4人だけ。
当事者同士の話し合いに任せる。モナ&テリエ夫妻は会議室の外で待つ。
「どうなることかしら?」と心配でたまらないが、当事者に任せる。
この夫妻は、あくまでも仲介役に徹して、公平な立場をとり、どちらかに肩入れするようなことはしない。

何度か、双方がぶちぎれて、会議室の中から怒声が聞こえる。
そんな時、交渉は一旦休止して、食事にする。
おいしい料理。とろけるようなデザート。
会議室をでたら、一切、交渉に関することは話題にしないルール。
おいしいものを食べて、お互いの家族のことなどを話題にする。
空気が和む。

会議が煮詰まってしまったら、散歩にでて、外の冷たい空気を吸いながら、お互いのプライベートを話題にしながら歩く。
気持ちは変わってくる。

会議が最悪の雰囲気になり、決裂しそうになった時、モナが必死に双方を説得した。
気持ちは通じた。双方が再び話し合いの席に戻る。

国家・民族間の交渉は、その背後にいる何千万の人々のことを思えば安易な譲歩はできない。とはいえ、所詮、交渉とは人と人との人間関係。
関わった人たちの人格、熱意、誠実さにより、交渉の行き着く先が決まっていく。
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プロフィール

萩谷功枝

Author:萩谷功枝
世界史教師をしています。

映画や本の紹介、最新のニュースから感じたこと、など自分の日常を通して、世界史のことを考えていけたらと思います。

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