『タクシー運転手 約束は海を越えて』

タクシー運転手

2017年の韓国映画
監督:チャン・フン
出演
ソン・ガンホ
 (タクシー運転手のキム・マンソプ) 
トーマス・クレッチマン  
 (ドイツ人ジャーナリストのユルゲン・ヒンツペーター)

1980年の5月に起こった光州事件を舞台に、戒厳令下の光州市を取材しようとする外国人記者を乗せるソウルのタクシー運転手を通して、この事件の悲惨さ、民主化を求める光州の人たちの気骨を描いている。

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この映画のことを知らなかった。
2020年の6月1日にNHK・BSプレミアムで放映されたことで、Twitterに「よくぞこの時期に!」「NHK、やるなあ!」という声が寄せられたという。
「この時期」とは、もちろん光州事件の起きた1980年5月18日から40年という意味もあると思うが、やはり天安門事件の起こった6月4日を前にして、ということなのだろう。
今年も中国では天安門事件に関して報道規制がかけられている。
そして、アメリカでは、黒人男性ジョージ・フロイドさんが警官によって不当に殺害された事件をきっかけに全米で大規模なデモが起こっている。一部が暴徒化して、商業施設の破壊行為に及んだ時、トランプ大統領は軍隊の派遣を命じて、これを武力で鎮静化した。
このことに対する抗議の声がさらに高まっている。
まさにこのような時期に!

私は、BSの放送を見逃してしまったのだが、幸いAmazonプライムで見ることができた
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「すごい」「見たほうがいい。」のTwitterのつぶやきの通りでした。

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光州事件とは。
1980年5月18日から27日にかけて、全斗喚(チョン・ドゥファン)軍事政権に対する
光州市で起こった民衆の抗議活動を、軍が武力を使って鎮圧し、学生や市民に多数の死傷者を出した出来事。

韓国では、1979年10月26日の朴正熙(パク・チョンヒ)暗殺後、「ソウルの春」と呼ばれる民主化を求める動きが広がっていた。しかし、粛軍クーデタにより実権を掌握した全斗煥が、1980年5月17日、非常戒厳令拡大措置を実施し、民主化の指導者の金大中らを逮捕した。すると、これに抗議する学生を中心とする市民によるデモが起こった。
(光州市のある全羅南道は金大中の出身地で、光州での人気は高かった。)
これを鎮圧する軍の暴行がひどいもので、光州市民の怒りはさらに多くの市民の参加に膨れ上がり、これを抑え込もうとする軍のやり方もさらに強硬なものとなり、死者150人以上を出す悲惨な結果となった。

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さて、「タクシー運転手」というこの作品について。
おもしろい!
家賃も滞納していたタクシー運転手キム・マンソプが生活資金を稼ぐため、大金が稼げそうだということで、取材のために光州まで行きたいというドイツ人記者を乗せる。
光州市に至る道路は軍が検問を設けて封鎖している。裏道を使ったり強行突破をしたりで、何とか光州市までたどり着くのだが。
そこで起こっていたことは...。
金稼ぎだけを目的に光州まで車を進めたタクシー運転手が、軍の暴挙を目の当たりにし、次第に学生や市民と共闘していく。
テレビから流れてくるニュースは、軍の被害の報道だけで、一般市民の被害については嘘だらけ。
この出来事の悲惨さを正しく世界に伝えるために、ドイツ人記者を守り抜く。
都合の悪い映像を流されたら困る軍は、執拗にドイツ人記者を追跡し、空港へ向かうのを妨害する。
この時、軍の妨害からマンソプの車を援護する光州のタクシー運転手たちの協力が感動ものだった。

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見終わって強く感じたこと。
韓国は40年前の軍事政権下の暴挙をこうして批判を込めて映画にすることができる。
中国が、いまだに天安門事件のことを触れたがらないのと大違いだ。

民主化を求める学生の運動を軍の力をもって制圧、そして流血の惨事になった天安門事件は、世界中から非難を浴びた。しかし、この事件を、過去の過ちとしてきちんと総括できなければ、中国の民主化はやってこない。

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それにしても、韓国の大統領は暗殺されたり(朴正熙)、逮捕されて死刑判決を受けたり(全斗煥と盧泰愚)、自殺したり(ノムヒョン)、逮捕されたり(パク・クネ)と、やめた後が悲惨だなと思っていたが、全斗煥に関しては、この映画をみて、死刑判決は妥当だなと分かった。(その後、減刑、特赦)

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主演のソン・ガンホは、『パラサイト 半地下の家族』ではラストで大事件を起こしてしまうお父さん。
この作品では、政治に興味なんてなかった一介のタクシー運転手が、軍に抵抗する光州の市民に共感し、危険をくぐりぬけながら、見事ドイツ人記者を金浦空港まで送り届ける様子を演じる。
JSAでは韓国軍兵士(イ・ビョンホン)が兄貴と慕うようになってしまう北朝鮮側の兵士を演じた俳優。
韓国を代表する、素晴らしい役者だと思います。
韓国映画、面白い。
まだまだ見ていない韓国映画の傑作がたくさんあるので、これから掘り起こしていきたいと思いました。
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プロフィール

萩谷功枝

Author:萩谷功枝
世界史教師をしています。

映画や本の紹介、最新のニュースから感じたこと、など自分の日常を通して、世界史のことを考えていけたらと思います。

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