『デトロイト』

2020年5月末、ミネソタ州ミネアポリスで、黒人男性ジョージ・フロイドさんが白人警官により、路上に組み伏せられ、警官の膝で首を押さえつけられて、「窒息」により死亡した。
抵抗をしていないフロイドさんと警官の暴行はすべて動画に収められ、これが拡散したことで、抗議するデモが各地で盛り上がった。
デモは「BLACK LIVES MATTER(黒人の命は大事)」を掲げ、黒人だけでなく、白人も加わって、BLM運動と呼ばれ、大きな動きになっている。

事件の直後、一部が暴徒化して、破壊活動を行った。
この時、トランプ大統領は、
「各州の知事や市長が必要な行動をしないなら軍の配備も辞さない」と警告した。
破壊活動や略奪などの行為に対して、フロイドさんの弟が、「こうした行為は兄の望むものではない」という呼びかけを行ったことで、過激な行動は収まり、平和的なデモに転換した。
そして、各地でデモが盛り上がりを見せると、トランプ大統領は、
「ANTIFAがデモを扇動している。」とtwitterでつぶやいた。
(ANTIFAとは、アンチ・ファシストの略称で、アメリカの政治や社会で勢力を広げ始めた極左の暴力的秘密組織なのだそうだ。)

トランプ大統領という人は、人々の抗議の動きに対しても、力でねじ伏せようとし、自分に都合の悪い動きの原因を、自分と敵対する勢力になすりつけようとするのだな。
問題の原因が人種差別にあると考えるなら、それを解消できるような方向に導くのが政治のリーダーの役割だと思うのだが、この人は歩み寄りではなく、対立を深める方向に事態を進めている。

あまりにも根深い問題なので、「アメリカ社会から差別はなくならない。」とまで言う人もいるけれど、
人々の意識を変えていくこと、人々の意識が変わっていくことで、解決への道を見いだしたい。
社会が目指す方向は見失ってはいけない。

暴力はや弾圧は人々の反発を生むだけだ。
人々の意識を変えるのは、悲しい出来事に対する抗議活動であり、
「差別はやめよう。」と呼びかける平和的なデモの盛り上がりであり、
SNS上の支持であり、また、文学であり映画であると思う。

発端となったミネアポリスの事件は、警官がフロイドさんを8分46秒という長い時間、「息ができない」ような状態で首を押さえつけた。
この行為は「殺人」と断定される。
警察が一般市民の黒人に行った暴行。
あまりにも理不尽。

過去に起こった同様の理不尽な出来事を描いた映画『デトロイト』をみてみた。
監督は『ハート・ロッカー』、『ゼロ・ダークサーティ』のキャスリン・ビグロー。


デトロイト

『デトロイト』

2017年のアメリカ映画
監督:キャスリン・ビグロー
出演
ジョン・ボイエガ 
  (黒人の警備員 ディスミュークス)
ウィル・ポールター
  (デトロイト警察のフィリップ・クラウス)
アルジー・スミス
  (黒人たちのバンドのボーカル、ラリー)

1967年のデトロイト暴動の最中に発生したアルジェ・モーテル事件を題材にした作品。

デトロイト市警のクラウスの暴行がひどい。
商業施設からの略奪行為をした黒人を追跡し、背後から銃撃して死亡させた。
逃走した黒人は、警官に対して抵抗はしていないので、もちろん正当防衛は成立しない。
このことをクラウスは上司から注意を受けるのだが、処分はなくそのまま勤務を続行。
そして、アルジェ・モーテル事件へ。
暴動により、コンサートも中止になって帰路に向かったラリーたちは、乗ったバスが暴徒化した市民に襲撃され運行できなくなり、最寄りのモーテルに避難した。
モーテルにいた別のグループの黒人カール・クーパーがいたずらに窓からスターターピストルを発砲した。

これを警察に向けた狙撃と勘違いしたデトロイト市警がモーテルに乗り込んで狙撃犯と銃を見つけ出そうとする。
その捜査のやり方があまりにもひどいのだ。
脅迫による犯人捜し。答えなければ痛い目にあうぞ、ということを見せつけての自白の強要。
結局、罪のない黒人3人が殺害された。
事件後の裁判では、かかわった警察官3人全員に無罪判決が下された。

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この作品では、デトロイト市警のフィリップ・クラウスが差別的白人至上主義者として描かれている。
実際、そういう人だったのだろう。
背後からの銃撃、正当防衛を成立させるために現場にナイフを置くという卑怯さ、
黒人たちを壁に向かってたたせて、脅迫していく様子。
見ていて腹立たしくなる。
(この憎たらしい警官を演じたウィル・ポールターが見事!)

もちろん、デトロイト市警のすべての警官が差別的白人至上主義者というわけではない。
しかし、黒人と警察の対立は根深い。
差別感情をもったクラウスは、黒人の抵抗が怖かったのだろうと思う。
差別しているものからの反撃が怖いから、やりすぎてしまう。
警察権という権力を持っているだけに、弱い立場の黒人と権力を笠に着る警察という構図が出来上がってしまう。

************

公民権法の成立(1964)により、法律上、人種差別の撤廃がなされた。
しかし、現実のアメリカ社会では、差別はなくなっていない。

2020年の現在も。
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CR-SIS

このデトロイトを2年前に見ていたので、現在繰り広げられるアメリカの光景はデジャブのようでした。言われるとおり、本当にトランプはアホですが、これをうまく利用して大統領選に勝つというシナリオにまっしぐらです。アメリカ亜国民がばかでないことを祈ります。ただ、先日清隆お父さんもご一緒した渋澤さんが、「バイデンの声明には全く心を打たれなかった」という言葉が気になります。

Re: CR-SIS

コメントありがとうございます。この映画のことを教えてもらい、すぐに見ました。
それにしてもデトロイト市警の暴力はひどいですね。
1967年から50年以上もたっているのに、また同様のことが繰り返されてしまった。
でも、今回は、人々の反応が違う。差別はやめようという意識が当たり前になるように、世界が進んでいけばいいなと思います。
プロフィール

萩谷功枝

Author:萩谷功枝
世界史教師をしています。

映画や本の紹介、最新のニュースから感じたこと、など自分の日常を通して、世界史のことを考えていけたらと思います。

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