『弁護人』

弁護人 ソン・ガンホ

2013年の韓国映画
1981年の軍事政権下の韓国で実際に起きた冤罪事件である釜林事件を扱っている。
出演
ソン・ガンホ : 弁護士のソン・ウンソク・・・廬武鉉(ノ・ムヒョン)大統領がモデルとされている。
イム・シワン : ソン・ウンソクが通っていた食堂の息子パク・ジヌ。共産主義思想を持つ人物として拘束され、ひどい拷問を受ける。

**************

韓国映画に詳しくないので、なにか面白い作品はないかとU-Nextを検索しているうちに、たまたまこの作品をみつけた。
ソン・ガンホ主演なので、きっと面白いだろうと思ってみてみたら、まさに大当たりで、すごい作品だった。

ソン・ガンホは、『パラサイト』(2019)でのお父さん役が強烈な、今や韓国を代表する俳優。
イケメンだらけの韓国俳優の名前がまるで覚えられない私でも一発で覚えられた。
いかつい体型、迫力のある演技で、人々の印象に強く残る名優だ。
『タクシー運転手』(2017)が素晴らしかった。この人について知れば知るほど、すごい人だということがわかってきた。

************

韓国は1988年のソウルオリンピック、2002年のサッカー・ワールドカップの日韓共同開催により、日本にとって親しみの持てる国となり、2004年の『冬のソナタ』のヨン様人気で空前の韓流ブームが起こり、韓国ドラマ大好き、韓国コスメ大好きな女性たちは多くなった。

今では「近くて近い国」になったが、1980年代頃までは、韓国は「近くて遠い国」だった。

私は、1980年代の韓国の国内でどのようなことがあったのかということを、ほとんど知らなかった。
韓国の大統領についても、全斗煥(チョン・ドゥホァン)が軍事独裁政権で、金大中(キム・デジュン)とそれに続く廬武鉉(ノ・ムヒョン)が民主化路線で、北朝鮮に対しては太陽政策をとったという教科書レベルの知識しかなく、それ以上の深いことは知らなかったと反省し、勉強しなおしてみた。
***************

それにしても。
Wikiで調べてみたら、1980年代の韓国では、恐ろしいとしか言いようのないことが起きていた。

粛軍クーデタで実権を掌握した全斗煥は、民主化を要求する光州市民のデモを武力で弾圧し、市民の側に多数の死者をだすという光州事件を起こした。
さらにその後も、これを鎮静化するためにひどい弾圧を続けた。
以下、引用
「社会的に弱者とされる失業者やホームレス、あるいは犯罪者や学生運動家、労働運動家など約4万人を一斉に逮捕させ、軍隊の「三清教育隊」で過酷な訓練と強制労働を課した。特に後者は暴行などで52人の死者を出し(後遺症の死者は397人)、2768人に精神障害を残すなど計り知れない傷跡を残した。
あまりの酷さに人々から「一旦入ったら生きて出られぬ」と恐れられたという。逮捕された者の中には光州事件に連座した高校生や主婦、14歳の女子中学生も含まれていた。」

そして、翌1981年。『弁護人』で描かれている釜林事件が起こる。
1981年、大統領となった全斗煥は、「赤色分子」(共産主義分子)を取り締まるとして、社会活動家たちを捕えた。
釜山読書会のメンバー22名は、逮捕令状もないまま、不法に拘禁され、ひどい拷問を受け、自白を強要された。

*******************

読書会のメンバーが勉強会で読んでいた本は、E.H.カー著作の『歴史とは何か』だった。
公安当局はこの本を、「共産主義を掲げた有害書籍」とし、この読書会を有害書籍を回覧し不法集会を組織した国家保安法違反とした。
これを、弁護人ソン・ウンソクは、イギリス大使館に照会し、『歴史とは何か』が共産主義を掲げた本などではなく、E.H.カーが「尊敬を集める歴史学者である。」という回答を得る。
公安当局は本の内容も理解しないまま読書会メンバーを逮捕するという暴挙を行ったわけだ。

このあたりを法廷で突き詰めていく弁護人ソン・ウンソクの姿は気持ちがいい。

(実は、『歴史とは何か』は、私が学生時代に赤鉛筆で傍線を引きながら繰り返し読んだ本だ。清水幾太郎訳で岩波新書から出されたこの本は、私の学生時代の1970年代頃は必読書だったけれど、今はどうなのかしら。)

************

ソン・ウンソクは正義感に駆られて、国家権力に立ち向かっていく。

公判中、弁護人ソン・ウンソクの「一番つらかったことはなんですか?」という質問に、
被告人パク・ジヌが「理不尽さです」と痛々しくボソリと答える。

酷い拷問を受け、体があざだらけになっているパク・ジヌの肉体的苦痛はいかばかりかと思うが、何よりもつらかったのは、精神的苦痛なのだ。
「うその自白でありもしないことをでっちあげられ、うそをうそで上塗りさせられました。」

*******************

廬武鉉は、まさにここで描かれているソン・ウンソクのような人物だったらしい。
貧しさから高校・大学に行けなかった廬武鉉は、高卒認定試験を受け、働きながら司法試験に合格した。
はじめは登記業務・不動産・租税関連の訴訟を専門として金を稼いでいたが、釜林事件を機に人権派弁護士に変身した。
それは、『平凡な常識と良心、そして「拷問されて真っ黒になった学生の足の爪」を見ての憤りと怒り』からだったという。

日本以上に学歴社会といわれる韓国での廬武鉉の経歴は、その背後にどれだけの努力があったのだろうと想像する。
大統領になってからも、廬武鉉は少数与党を率いて、苦境に立たされ続けた。
大統領弾劾訴追案が可決され、一時職務を停止されたこともあった。
これに対しては、世論の激しい反発があり、総選挙での結果により、事実上の信任とみなされ、職務に復帰した。
その後、本格的に改革に取り組むのだが、結局、国家保安法廃止などの含む改革立法は、保守野党の反対にあって挫折した

廬武鉉は、大統領退任後の2009年、側近や親族が贈収賄の容疑で逮捕され、本人も捜査の対象となり、追い詰められていく中で、自宅裏山の岩崖から飛び降りて自殺した。

**********
日本にも戦前に治安維持法という法律があったな。
他国にも、国家保安法だの国家安全法とかという名前の法律があるわけだが、こういう法律は、批判を恐れる権力の側が、批判する勢力をつぶすための法律なのだな。
そして、暴力を使ってまで、批判する勢力をつぶそうとするのは、権力を持った側の不安の現れなのだ。
(しかも、ジヌたちは、歴史の勉強会を開いていただけであって、国家権力への批判や、まして共産主義による国家転覆などはまるで考えていなかった。)

弁護人イム・シワン

釜山読書会のメンバーで被告人となってしまったパク・ジヌを演じたのは、韓国ドラマ「ミセン(未生)」で主役を演じたイケメン俳優イム・シワン
酷い拷問にあい、次第に精神に支障をきたし、朦朧とした様子で出廷するジヌを痛々しいまでに見事に演じた。
「ミセン」でオ課長を演じたイ・ソンミンも新聞記者役で登場していた。
俳優の顔がわかってくると、作品を見る楽しみが倍増するのがわかった。

********

法廷ものは、私の好きな映画のジャンル。
この作品、大好きです。
「タクシー運転手」とともに、今年私が見た作品のベスト5に入りそうです。

いまならU-Nextで追加料金なし、Amazonnプライムで追加料金400円で見られます。、

スポンサーサイト



コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

萩谷功枝

Author:萩谷功枝
世界史教師をしています。

映画や本の紹介、最新のニュースから感じたこと、など自分の日常を通して、世界史のことを考えていけたらと思います。

最新記事
全記事表示リンク

全ての記事を表示する

検索フォーム
リンク
QRコード
QR