『2人のローマ教皇』

2人のローマ教皇


2019年の英・米・伊・アルゼンチン合作映画。
Netflixオリジナル作品。
監督:フェルナンド・フェイレス
脚本:アンソニー・マクカーテン

出演:アンソニー・ホプキンス(ベネディクト16世)
   ジョナサン・プライス(ベルゴリオ枢機卿=のちのフランシスコ教皇)

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タイトルを見たときに、さほど面白い映画ではないだろうと、あまり期待はしなかった。
世界史の教師をしているので、ローマ・カトリック教会史は必須なので、まぁ見ておこうか、くらいの気持ちで見始めたのだが、うれしいことに予想に反して、非常に面白かった。

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2人の教皇とは、2013年2月に辞任を発表したベネディクト16世と、その後を託されたベルゴリオ枢機卿(現在のフランシスコ教皇)のこと。
この作品は、この2人の心の交流を描いたものである。

教皇職は終身の役職で、本来、死んだ時にようやく任務から解放されるわけで、自分の意志で教皇を辞任するというのは極めて珍しい。700年前の1294年に事例があるだけだという。
(日本でも、2019年に平成の天皇が生前退位され、元号も令和になったが、日本の歴史の中で、これも珍しい事例で、私は、平成の天皇の決断には、ベネディクト16世の辞任の影響もあったのではないかと思っている。)

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ベネディクト16世は2005年から2013年までの約8年間、ローマ教皇を務めた。
前任のヨハネ・パウロ2世は、1978年から2005年までの27年間教皇を務め、非常に人気があり、全世界から尊敬されるような人物だったので、いろいろやりにくいこともあったろうと思う。
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(参考)この作品ではヨハネ・パウロ2世は冒頭に葬儀の時の映像がちょっと流れるだけで、登場はしていないのだが、前任者がどのような人物だったのかを知ると、ベネディクト16世を深くとらえることができると思うので、ここで、ちょっとヨハネ・パウロ2世についての説明をします。

ヨハネ・パウロ2世の何が素晴らしいか。
反戦と平和を訴え続け、世界中を飛び回り(訪問した国は129か国)、「空飛ぶ教皇」と呼ばれた。日本の広島・長崎を訪れた最初の教皇である。
・他宗派・他宗教・他文化間の対話を呼びかけた。
・キリスト教がなした過去の罪について、歴史的謝罪を活発に行い、ガリレオ・ガリレイの地動説裁判における名誉回復を公式に発表。また、ダーウィンの進化論についても容認した。
(今時、天動説を主張する人はいないし、人類がアダムとイブから始まったと思っている人はいないものね。)

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ヨハネ・パウロ2世が素晴らしい教皇だったという印象が強いのに比べると、ベネディクト16世は、イメージとしては、保守的・厳格・地味、といったところだった。
偉大な教皇の後任は辛い。
しかも、映画『スポットライト 世紀のスクープ』で描かれているように、ボストン・グローブ紙が「カトリック司祭による性的虐待事件」の記事を公開したのが2002年のことで、ローマ・カトリック教会は当然のことながら、厳しい批判にさらされた。
そんなことがあったころの就任だった。

この作品は、ベネディクト16世が辞任を決意する2012年を中心に描いている。
彼が後任を託そうとしたのが、現在のフランシスコ教皇だった。
ベネディクト16世とは、考え方のまるで違う人物である。
作品中でも、「君を次の教皇にしたくないから、教皇を辞めることができなかった。」というベネディクト16世のジョークがある。
そんなベネディクト16世がフランシスコという人物のすばらしさを見抜き、考え方の違うフランシスコを信頼して、あとを任せて退こうとする。
「君なら教会の改革ができる。」

フランシスコに教皇職を引き受けてくれるように説得する場面で、二人が背負っている過去の罪について告白しあうのが、この作品の見どころだと思う。
どんなに偉い人でも背負っている罪があり、だからこそ、人々に対して優しくなれるのだと思った。

ラストは、現在のフランシスコ教皇の活動。
フランシスコ教皇は初の南米出身のローマ教皇で、古い伝統にとらわれない革新的で庶民的な教皇。サッカーとビートルズが大好き。
公用車を使わず、公共交通機関で移動するなど、貧しい人の味方で、人気が高い。

この作品では描かれていないのだが、フランシスコ教皇は、トランプ大統領との会談での発言が注目をあびた。
メキシコ国境の壁に対して、「橋を築くことではなく、壁を造ろうと考えるのはキリスト教徒ではない。」
そして、アルゼンチン人である自分のことを「私も移民の子孫です。」と言って、トランプの移民排除の姿勢を批判したことは多くの人々からの共感を得た。

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ヨハネ・パウロ2世とフランシスコ教皇に挟まれたベネディクト16世なので、人気や評価の点で何かと損な立場にあると思うのだが、私は、この『2人のローマ教皇』という作品をみて、ベネディクト16世がなにかほほえましく、好感が持てた。
演じたアンソニー・ホプキンスが素晴らしい。
アンソニー・ホプキンス


脚本のアンソニー・マクカーテンは『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』、『博士と彼女のストーリー』『ボヘミアン・ラプソディー』を手掛けた脚本家。
この作品も2人の教皇が対話を重ねて理解しあうという展開のなかで、心に残る言葉が数多くちりばめられていた。

※注:フランシスコ教皇は、教皇に就任する前は正確にはベルゴリオ枢機卿なのですが、ややこしいのでフランシスコという表記で文を書きました。
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萩谷功枝

Author:萩谷功枝
世界史教師をしています。

映画や本の紹介、最新のニュースから感じたこと、など自分の日常を通して、世界史のことを考えていけたらと思います。

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