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萩谷功枝

Author:萩谷功枝
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『在りし日の歌』

在りし日の歌


2019年の中国映画。
この作品は、ヤオジュンリーユンの夫婦の、1980年代から2010年代にかけての約30年間を描いたもの。

この夫婦を軸にストーリーは展開する。

中国北京に住む労働者として真面目に働く夫婦。
子供が生まれ、たまたま同じ誕生日の子を持つ親同士が親しくなって、家族ぐるみのお付き合いをしていた。
子供たちは成長とともに仲良しの友達になり、いつも一緒に遊んでいた。
多くを望まず、周りの人を大切し、ごくごく普通の幸せな生活を営んでいた。

それが続けばどんなにいいことかと思う。
しかし、人生はいろいろなことが起こる。
普通に得られたはずの幸せな生活は、思いもよらなかった事故や、「一人っ子政策」という国策や、工場の人員整理に伴う失職や、抗うことのできない事態に翻弄され、壊れていった。

当たり前の生活が壊され、辛く、悲しい思いを経験した。

それでも、この夫婦はそれを受け入れて、その苦しみを乗り越えて生きていった。

老境を迎えたとき、この夫婦は、自分たちの人生に起こった様々なことのすべてを、穏やかな気持ちで振り返り、過去に関りを持ったすべての人に対して、優しい微笑みをうかべて再会をはたした。

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多くを語らないヤオジュンとリーユン夫婦の、様々な思いを込めた深みのある表情が素晴らしい。

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ここでちょっと中国現代史のレクチャー。
中国は、1949年の中華人民共和国の建国以来、激動の歴史をたどった。
大躍進政策の失敗では、餓死者1500万人が発生したといわれている。
(一つの出来事による犠牲者数としては、戦争や自然災害を超えてこれが最大)
文化大革命では、紅衛兵の横暴により、知識のある優秀な人材が「下放」により地方に追いだされ、農作業に従事させられた。
(この作品の中国語原題「地久天長」は、日本人にはおなじみの「蛍の光」で、文化大革命の時に地方に追放される青年たちが二度と戻れないことを覚悟して、涙を流して歌った歌だという。)
そして文化大革命の終息と、市場経済の導入
各工場は採算をとらなければならず、人員整理が行われ、働きたい人たちから職場を奪った。
1979年から2014年まで実施された「一人っ子政策」は、その問題点として、「黒孩子(ハイヘイズ。一人っ子政策に反して生まれたために戸籍を持つことのできない子供のこと)」や「小皇帝(兄弟姉妹のいない環境下で過保護に育てられたために、わがままで協調性がない子供のこと)」について指摘されるが、その陰にあった強制的な人工中絶にも思いを至らせなければならない。

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一市民として当たり前の生活をしようとしていたのに、政治や経済体制の変化、国策によりそれがかなわなかった人々。
逆にこうした変化に便乗してお金持ちになった人々。しかし、勝ち組になった人々でさえ、一見、いい暮らしをしているように見えても、実は消すことのできない心の痛みを長く抱えて生きていたりする。
それは、「一人っ子政策」を推進する側の立場にまわって、2人目を妊娠した妊婦に対して人工中絶を強制したことへの痛みであるかもしれないし、あるいは人員整理で社員を切らなければならなかったことへの痛みであるかもしれない。

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3時間5分にわたる、約30年間の年月を描いた壮大な作品。
現在と過去が行ったり来たりする。過去に何があったかを、過去の場面に戻って、登場人物の会話からとらえていかなければならない作り方。説明口調ではなく、淡々と登場人物の心を描いた秀作だと思う。
しかし、実は私は、登場人物の中国人の名前をよく把握できないまま見てしまい、前半はだれがだれだかわからなくなってしまった。後半はわかりやすかった。
おせっかいと思いつつ、これから見ようとする方、見終わった後、頭の中を整理したい方のために、登場人物の名前を挙げておきます。
主人公がヤオジュンリーユン夫婦。その子供がシンシン。養子の子供もシンシン。
この夫婦と大きなかかわりを持つのが、インミンハイイエン夫婦。その子供がハオハオ。ハイイエンは工場の主任。
彼らの友人カップルがシンジエンメイユー。シンジエンは、香港映画スターのようなおしゃれなファッションが大好きなイケてる男性なのだが、ダンスパーティーに行って、風紀を乱したという理由で逮捕される。1980年代になっても、まだ文化統制がきつかったのだな。あとは、インミンの妹のモーリー。工場でヤオジュンの指導を受けた美人の人。彼女のように、中国を出て、アメリカなど国外に自分の居場所を見つける人も多いのだろう。

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老境を迎えている自分としては、このヤオジュン、リーユンと同じような心のあり方でありたい。
自分の人生を振り返った時、「いろいろあったけれど、一生懸命生きてきたよね。」と思いたい。
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