『燃えよ剣』

『燃えよ剣』
燃えよ剣

2021年10月15日(金)公開。(コロナのせいで、公開が延期されていた。)
『日本のいちばん長い日』(2015)、『関ケ原』(2017)、に続く、原田眞人監督が描く三大変革期の完結編である。
この3作に共通するのは、終戦、徳川への政権交代、幕末・明治維新という大変革期において、滅びゆく側を主人公にして描いていることだ。

歴史的な出来事を題材にした作品でも、どちら側からの視点で描くかによって描き方は変わってくる。
日本のいちばん長い日』(原作:半藤一利)は当時の陸軍大臣:阿南惟幾(あなみこれちか)陸軍大将が主人公で、彼は1945年8月15日割腹自殺。
関ケ原』の主人公:石田三成は関ケ原の敗北後、捕らえられ、京都六条河原で処刑。
そして、今作『燃えよ剣』の主人公:土方歳三は敗北がわかっているような戊辰戦争の戦況の中で箱館まで逃げ延びて、戦い抜き、滅びてゆく。

歴史を考えたとき、日本は、この3つの変革期を経て、繁栄期に突入していく。
これら変革期の混乱を経たのち、260年間戦乱のない江戸時代が築き上げられ、日本が近代国家への変貌を遂げる明治時代となり、ポツダム宣言を受け入れたことで終戦となり、昭和前期の暗い時代から戦後の高度成長期へとつながっていった。

そして敗北した側は、そこで歴史の表舞台から去り、消えていった。
しかし、それでも、そこで登場した人たちの「滅びの美学」を貫いた生き方は、21世紀の今を生きる私たちの心を打つ。

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さて、今回は『燃えよ剣』だ。

司馬遼太郎の『燃えよ剣』が出版されたのは1960年代。多くの人々を魅了した歴史小説だった。
司馬遼太郎を読むことで日本史好きになった人は多いのではないかと思う。
それから半世紀、司馬遼太郎は読み継がれているのだろうか?
自分の若いころを思い出してみると、司馬遼太郎を読んで、登場人物の生き方、考え方を通して、歴史を学び、人生においての大切なことを考えたように思う。
しかし、今のように、膨大な量の情報や娯楽があるふれている中、司馬遼太郎が好き、などという若者はもはや少数派だろう
とはいえ、やはり、時代を超えて、司馬遼太郎は面白いと思う。
今の若者たちに、是非、司馬作品に触れてほしいと思うのだ。

映画は原作に触れるきっかけになる。
そういった意味で、若い世代の方々に、この作品を見て欲しい。

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などと思いながら、私としては珍しく、公開初日に夫と二人で、千葉の京成ローザというシネコンに行ってきた。

そして。
見終わった後の雑感。

「新選組」を描いた作品は、見る側の「新選組」に対する思い入れ度合いによって見方が変わってくると思った。
観客の中には、「新選組」について熱い思いがあり、隊士の名を熟知し、それぞれのメンバーの死に方までわかっているといういわば「新選組」上級者の方もいるだろうし、近藤勇、土方歳三、沖田総司くらいはわかるという方から、「新選組について、よく知らないので、知りたいと思って見に来ました。」という方まで、いろいろな観客がいると思うのだ。

そう考えると、すべての観客層の方を満足させる作品を作るのは難しいことだと思った。

さて、他人のことはさておき、私自身はどうなのかと言えば、近藤勇、土方歳三、沖田総司、山南敬助、芹沢鴨を知っているというくらいで、それほど詳しいというわけではない。
そして、今回、私は、「少しは知っているけれど、あまり詳しくはない」というレベルの者が陥りがちな、良くない見方をしてしまった。
何が悪かったかというと、登場人物をいちいち把握しようとしてしまったのだ。
なんとなく名前だけは知っているという、斎藤一とか、伊東甲子太郎(いとうかしたろう)、などの人物が出てくると、この人誰だっけ? どういう死に方をするのだっけ? 明治まで生き残るのだっけ?などと考えながら見てしまったのだ。
さらに、それを演じている俳優の名前を思い出したくて、「誰だっけ?誰だっけ」と、頭の中がぐるぐるしてきて、前半の登場人物の多さについてゆけず、見ているだけでエネルギーを消耗してしまった。
登場人物をきちんと把握したいなら、見る前に「燃えよ剣」を読み返すとか、上映が始まる前にパンフレットを買って、予習をしておくべきだったと反省した。

序盤の登場人物の多さについていけなくなり、頭がパンクしかけたものの、後半は土方歳三に焦点をあて、新選組が崩壊していく過程、土方歳三の劇的な死にざままでを味わってみることができた。(鑑賞能力、ほぼ回復。)


映画の見方としては、細部にこだわらず、作品のテーマを考えるというのが王道だな、と思った。

そしてもう一つ。
「新選組」を見るときにやってしまいがちなことがある。
それは、「新選組」作品の持つ宿命ともいえるのだが、過去作品と比較してしまうことだ。
例えば、沖田総司なら草刈正雄、というように。(かなり古い。1974年です。)
そして、私の中では、山南敬助はどうしても堺雅人になってしまう。
それほど大河ドラマでの堺雅人の山南敬助は鮮烈だった。
だから、今回の作品で山南敬助の扱いが、それほど重くなかったことに物足りなさを感じてしまった。私は、山南敬助は新選組の中で一番知的な人物だと思っているので、もう少し山南が土方と対立してしまう過程を描いて欲しかったし、そのあたりから新選組が内部崩壊していく様子に焦点をあてて欲しかったと思った。

もうひとり、芹沢鴨
大河ドラマでの佐藤浩市が演じた芹沢鴨が、酒と女にだらしなくて、隊の調和を乱すほどの横暴ぶりで嫌な奴だったので、この作品での伊藤英明の芹沢鴨はカッコよすぎると思ってしまったのだ。壮絶な殺され方はこの作品でも衝撃的に描かれていたけれど、アクの強さが足りないと感じた。
しかし、途中で過去作品での登場人物のイメージにとらわれすぎている自分にも気づいた。
あとで、解説を読んで知ったことなのだが、原田監督は、芹沢鴨を「粗暴だけれど品があって教養もある」人物として描きたかったということだ。
そして、伊藤英明は見事にそれに答えた。

今回の作品は今回の作品で完結している。
大河ドラマと比較しても仕方ない。

とはいいつつ、過去作品との比較もしながら見続けた中で、私の中で評価が高かったのが、実は、沖田総司の山田涼介だった。
沖田総司こそ、草刈正雄が一番だ、いや藤原竜也だ、という声が多そうだが、私は山田涼介がかわいくて、こんな沖田総司もよいなと思った。
土方に可愛がれ、素直で愛されキャラの沖田総司だった。
この作品の中で唯一の癒しだった。

そして、岡田准一の土方歳三と、鈴木亮平の近藤勇は、本当に素晴らしかった
(文句なしです。)

と、まあ、ストーリー全体ではなく、登場人物とそれを演じた俳優にいちいちこだわり、さらに過去のNHK大河ドラマなどと比べてみるって、もしかして作品の見方としては邪道なのかもしれないけれど、作品の魅力には浸ることができたと思う。
楽しみ方は人それぞれ。

そして、冒頭に書いた「若い世代の方々も是非ご覧になって欲しい」という点に戻ってみる。NHK大河ドラマで「新選組」が放映されたのが2004年。それからすでに17年。
今の10代20代の若い方々は、「新選組」について触れる機会がなかったのではないか?
だから、こうして20年以内のスパンで、作品がTV化・映画化されるのは嬉しいことだと思う。

「新選組」も、年末になると必ず放映される「忠臣蔵」と同様で、日本人にとっての文化なのだ。
「滅びの美学」を持つ新選組は日本人の心の琴線に触れる。
激動の歴史の中で、崩壊していく「新選組」。
末期症状の組織が、内部分裂していくさま。
負けるとわかっていながら、箱館まで逃げ延びて戦い抜いた土方歳三。

感じること、考えることは盛りだくさんでした。


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萩谷功枝

Author:萩谷功枝
世界史教師をしています。

映画や本の紹介、最新のニュースから感じたこと、など自分の日常を通して、世界史のことを考えていけたらと思います。

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