
まったく面白くない映画だった。
観客にまったく媚びない制作姿勢。
面白いはずはない。
その潔さが見事だった。
**********************
3年以上の歳月をかけて、イラク、シリア、レバノン、クルディスタン(クルド人居住地)の国境地帯を撮影した、ドキュメンタリー作品。
そこに登場するのは、紛争に傷ついた人たち。
まったく面白くないながらも、少年アリが暮らしている家の中まで入り込んで、アリと幼い5人の弟・妹たちの寝起きの様子や、クルド女性防衛隊部隊の宿舎の中まで入り込んみ、長い長い時間をかけて、カメラを回しているジャンフランコ・ロージ監督がすごい。
***************
少年アリ。
夜明け前、川に仕掛けた網を黙々と引き上げる。
彼は、一家を支えるため、狩りのガイドをするために、狩場に続く道路のわきに立ち、客を探す。
家に帰っても、毛布にくるまって眠るだけ。
もう随分、笑っていないのではないだろうか。
迷彩服に銃を抱えて丘の上に立つクルド女性防衛隊部隊。
おしゃれをして、友達と恋バナに花を咲かせたい年頃の娘たちが、兵士になっている。
任務が終わって、宿舎(といってもかなり粗末)に戻った時、みんなでストーブに手をかざしていたから、あの辺りは冬はかなり寒いのだろな。
暖かい部屋で、温かい紅茶とケーキを楽しみたいよね。
ISIS(イスラム国)の残虐な暴力を目の当たりにして、心に深く傷を負ってしまった子供たち。
カウンセラーの質問に記憶を吐き出す。
怖い思いをいっぱいしたんだね。
何にもしてないのに、ぶたれたんだね。
子供たちが描いた絵には、子供らしいタッチで描かれた人物が並ぶ。
しかし、そこに描かれているのは、斧で腕を切断された人、鎖で縛られている女性。
傍らに立つ黒い装束に身を固めたISISの兵士。
残酷なシーンが並ぶ。
赤い囚人服を着せられた刑務所の囚人たち。
多分、彼らは、犯罪は犯していない。
精神病院でのリハビリのための演劇。
彼らが、生きていて怖いと感じずに、穏やかな心で過ごせるように回復できる日は来るのかしら。
そして、これは、同じ地球上の全く同じ瞬間に、私たちが暮らしているのとは別の場所で暮らしている人たちの日常の生活。
スポンサーサイト