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萩谷功枝

Author:萩谷功枝
世界史教師をしています。

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『白い牛のバラッド』

白い牛のバラッド


制作国:イラン・フランス (2020)
日本での公開は2022年2月18日

監督:ベタシュ・サナイハ
マリヤム・モガッダム(主役のミナも兼任)

殺人罪により夫を死刑に処せられてしまいシングルマザーとなってしまったミナ
聴覚障害で口のきけない娘のビタとともに、牛乳工場で働きながらとひっそりと暮らしていた。
しかし、夫は冤罪であった。
裁判所からは、遺族には賠償金が支払われるといわれる。
賠償金2億7000万トマンという金額はそれほど多いというわけではないらしい。
それなのに、賠償金が入るのだろう、隠し預金があるのだろう、とかいって、まとわりついてくる義弟。
さらに、住んでいたアパートの大家からは突然、退去を命じられる。
困難が続く。イラン社会で、貧しいシングルマザーが生きていくのは厳しい。
そこへ、夫の古い友人だと名乗るレザが現れ、ミナ母娘に援助の手を差し出す。

*******

この作品は、サスペンス仕立てになっているので、このあとの展開について書くのは控えます。

フライヤーのキャッチコピーは、
「衝撃の冤罪サスペンス 罪と償いの果てに彼女が下した決断とは。」

**********************

ラストについては、人それぞれで、いろいろな受け取り方があると思います。
「どういうことなのか?」と、考えさせられるような描き方が私は好きです。

この作品を見終わった後、いろいろ考えました。
ただ、まだこの作品をご覧になっていない方で、これから観ようと思っている方には、余計な情報にしかならないので、ここで読むのをやめてくさい。

この記事の最後に私見を述べたいと思います。

*******************

この作品を通して、死刑制度について、考えさせられました。
劇場で販売されているパンフレットの記事がとても参考になりましたので、その記事からの抜粋をあげておきます。

イランは死刑執行数が世界第2位の国である。
・この作品は、自国イランでは、政府の検閲により上映許可が下りず、数回しか上映されていない
イランの法律は、1979年のイラン革命以降、イスラーム法(シャリーア)に則った形で制定されており、殺人罪の被害者は同害復讐刑を選び、加害者の死刑を求めることが可能である。ただし、加害者の罪を赦し、賠償金の支払いを求めるということもできる。

・現在、旧ソ連諸国において、死刑制度を残すのは、独裁国家のベラルーシとタジキスタンの2国と、20年以上執行していない実質的な廃止国ロシアのみ。

ロシア以外のヨーロッパ諸国はすべて死刑制度を廃止している。

現在OECD加盟国38か国のうち、死刑制度が存続しているのはアメリカ、韓国、日本の3国のみ。
 このうちアメリカは50州のうち23州で廃止され、韓国はロシアと同様、実質的な廃止国である。
 つまり、OECD加盟国のうち、国家として統一して死刑を執行しているのは日本だけ。

    (以上、パンフレットの記事を抜粋、要約。)
****************

世界の流れは、死刑廃止の方向に進んでいるのだろうな、と思う。

しかし、ただその流れに乗っかて、うちの国もそういうことにしましょう、ということはできない。

日本の場合、1995年のオウム事件があった。(死刑囚13人全員に対して平成30年3月に刑が執行された。)
2008年には秋葉原通り魔事件があった。(2015年に死刑が確定判決に)
2016年には相模原市緑区での知的障碍者福祉施設「津久井やまゆり園」での大量殺人事件があった。(2020年横浜地方裁判所で死刑判決。被告人が自ら控訴を取り下げたことで死刑が確定)

そして、死刑制度について考えさせられることになる光市母子殺害事件(1999年)があった。
この事件では犯人が当時18歳で少年であったため一審・二審で無期懲役判決が下された。しかし、少年が拘置所から知人に出した手紙に、「無期はほぼキマリ、7年そこそこに地上に芽をだす。」というような全く反省の情が見られない文面が明らかにされ、被害者の夫であり父である本村洋さんが死刑を望む旨を強く表明して裁判を戦ったことで、事態が変わっていった。そして最高裁で死刑が確定した。この裁判では、死刑廃止を訴える多勢の弁護団と、たった一人で犯罪被害者遺族として法廷に立った本村さんでは、思いの強さが違っていたように思う。

「死刑制度は廃止されるべきである」という論拠だけでは、被告人を弁護することはできない。

世界の趨勢がどうであるかではなく、日本人の心情がどうであるかも鑑みて、ことを進めていかなければいけないと思う。

私は死刑廃止論者ではない。

***************
しかし、裁判官も人間である。間違いが絶対にないとは言えない。

パンフレットの中に、1966年におきた袴田事件の被告:袴田巌に死刑を宣告した裁判官のひとりだった熊本典道が、判決言い渡した半年後に裁判官をやめて、その後苦悩の人生を送って2020年に逝去した、ということが書いてあった。
くしくも、今朝(2022年2月27日)のニュースで、弁護側が提出した新たな鑑定結果について、検察側が独自に実験を行ったうえで裁判のやり直しに必要な新証拠とは認められないと反論する意見書を裁判所に提出した、ということを報道した。
(逮捕から1年余り後に現場付近のみそタンクから発見された血痕のついた衣類を検察側の捏造とする弁護側に対して、検察側の実験では、みそに漬かった血痕のついた布は4~5か月たっても顕著な赤みがみられた、というもの。)

50年以上も前の事件に対して、まだ裁判が続いているのである。

裁判官とは大変な仕事だと思う。

****************

話が、だいぶそれてしまった。

『白い牛のバラッド』のラストについて。
レザがミナの前で、ホットミルクを飲む場面。二人の緊迫感を感じさせる表情が絶妙。

私は、あのミルクには洗剤かなにか、家にあったものが混入されていたと思う。
何故なら、ミナが真実を知ってから、家に帰る前の時間、ずっとレザと一緒だったので、致死量の毒物を用意することはできないと思うから。
さらに自分が住んでいる家で、毒殺したら逃げ切れるはずはないので、娘ビタを抱えているミナがそんなことをするはずはないと思うから。
異物が混入したミルクは変な味がしたと思うけれど、レザはミナの見ている前で全部飲み干した。

そう思います。
そのあと、ミナとビタがどうやって生きていくのかを想像すると、辛いです。
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