
2019年のドイツ映画。日本での公開は2022年1月。
イスラエルとパレスチナの若者たちが、世界的な指揮者の指導の下で、オーケストラを組み、和平コンサートを開くという企画が持ち上がる。
音楽により、和平への道を拓いていくことができるのだろうか?
もちろん、それは簡単なことではない。
この根深い対立は簡単に解決できることではないということを思い知らされる。
しかし、一筋の希望が見える。
ラストの空港の待合室での演奏は感動的だ。
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現在のイスラエルとパレスチナの人々の暮らし方、それぞれの感情を知ることができる作品でもある。
パレスチナ側からイスラエルに入るには、検問所を通らなければならない。
イスラエルとしてはテロ犯を絶対に通してはならないから、検査官による不愛想で感じが悪い厳しいチェックが行われる。
バイオリンケースのようなものを持っていればなおさらだ。
そして、オーデション。
音楽教育を受けてきたロンのようなイスラエルの若者と、貧しい中で指導者もいない環境で練習を積んできたレイラのようなパレスチナの若者とでは、当然レベルも違っている。
しかも憎しみ合っている2つの民族という構成で、オーケストラが組めるのか?
応募してきた若者たちの意識は、音楽の実力を認められるチャンスと考えただけであり、テーマである2つの民族の和解などということは全く考えていなかったと思う。
しかし、それぞれの気持ちがバラバラでは音楽は作れない。
彼らをまとめなければ、コンサートは成立しない。
それを成し遂げようとする指導者としてのスポルクが素晴らしかった。
言い争い、もめごとが絶えないメンバーたちに、本番までの3週間、イタリアの南チロルの山間部での合宿を提案する。
ここで、行われたグループワークの手法がとても参考になった。
相手への不満を5分間ぶちまける。
もちろん罵り合いになるけれど。
「平和を望むか?」という問いに対して、地面に線を引いて、自分が「イエス」と「ノー」のどちらの側に立つのかを選ばせる。
同様の問を日本でやったら、100人の子供たちが100人とも「イエス」の側に行くのは間違いないけれど、イスラエルとパレスチナの若者に問うと、どうしても「自分たちの住んでいた土地を奪ったイスラエルが許せない」、「テロを行うパレスチナが許せない」、という気持ちがあるから、単純に「平和がよい」とは言えない複雑な気持ちがせめぎあうのだ。
この合宿は素晴らしかった。
当初のぎくしゃくした雰囲気はなくなり、一緒によいコンサートにしようという機運が盛り上がっていく。
単に演奏のテクニックのことしか頭になかった若者たちが、相手の立場を考えるようになる。
気持ちがまとまってくる。
しかし、合宿に参加した20人の若者たちに歩み寄りがあったとしても、その他の一般の人々の意識は、憎しみ合いのままなのだ。過激組織にとっては、これは理解しがたい動きなのである。
だから、コンサートの開催まで、この企画はそうした組織につぶされないように秘密裏に進めていかなければならなかった。
そのためにも写真撮影はNG。SNSの使用も禁止にしていたのだが…。
スポルクが自身の生い立ちを語った時、ドイツ人とユダヤ人の抱える歴史にまで問題はつながっているのだと、その根深さにため息が出た。
そして、住んでいた家を奪われてしまったレイラの父親と母親。
頑なにイスラエルとの歩み寄りを拒否する母親と、それでも娘の才能をなんとか生かして欲しいと願う父親。
それぞれの気持ちを深く描いている作品だと思いました。
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