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萩谷功枝

Author:萩谷功枝
世界史教師をしています。

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ベルファスト

世界史教師をしているので、タイトルを聞いたとたん、「これは見なくては」と飛びつき、初めて、公開前の先行上映を見に日比谷まで行ってきた。
コロナ以降、近所のガラガラにすいている映画館しか入ったことがなかったので、都心の映画館はこんなに人がいっぱい入るのかと驚いた。(田舎者なのです。)
そして、席が最前列しか取れなくて、これまた初めて最前列で画面を見上げるような姿勢で観賞した。
たしかに座席の位置としては、良いとは言えないけれど、首か腰が痛くなるかと心配だったが、意外と平気で、作品に集中できた。


ベルファスト

『ベルファスト』
2021年のアイルランド・イギリス合作のドラマ映画。
日本での公開は2022年3月25日。

これは、北アイルランドの都市ベルファストで起こった民族対立を、少年バディの目を通して描いた作品である。そしてそこに住むごく普通の良心的な家族の物語である。

経済的に余裕があるわけではないが、大工としてロンドンに働きに行って、家を留守にしていることの多いお父さん。お母さんはしっかりと留守をまもり、お父さんが払いきれていなかった税金の滞納金もしっかりと支払いつづけて、もうすぐ完済というところまできていた。近所におじいちゃんとおばあちゃんも住んでいて、優しくて、孫たちと仲良し。
バディはお友達と町じゅうを走り回って遊んでいた。

そこへ突然の荒くれ者たちの襲撃騒ぎ。
プロテスタントの不良の若者たちがカトリック教徒の店舗を襲撃する。
飛び散るガラス片。逃げ惑う人々。

ベルファストは、多数のプロテスタントと少数のカトリック教徒が住む町である。
しかし、1968年以前は、表立った宗教的対立などはなく、子供たちが路上で遊んでいて、大人たちもそれを見守っているような、とても平和な街だった。

それが一部の排他的な心を持つ一団による暴力から混乱が始まってしまった。
排他的・暴力的な武力集団。
彼らが言っているのは、「ここは俺たちの町だ。カトリックは出ていけ。」

バディの一家はプロテスタントだ。
だから襲撃される側ではない。
しかし、こんな争いのある町に住むのは、子供に悪い影響を与える。
バディも商店襲撃のどさくさによる商品の万引きに巻き込まれる。

バディのお母さんとお父さんは悩む。
そしてその対応がとてもいい。
商店から商品を持ってきてしまったバディにそれを返しに行かせる。
(バディが持ってきてしまったのがお菓子やおもちゃではなく、バイオ洗剤だったというのが笑いを誘う。理由は環境に良いから。)
大好きな女の子がカトリックであるということを心配して、相手がカトリックでも結婚することができるのかというバディの質問に対するお父さんの答えも素敵だった。
「もちろんできるよ。カトリックでも。ヒンドゥー教徒でも。」
人間として尊敬できるのなら、宗教など関係ないという、お父さんの考え方。

おじいちゃんとおばあちゃんもとてもいい。
いつも温かく見守ってくれていて、孫たち一家の幸せを一番に考えてくれている。

そんな家族に囲まれて育っている少年バディ。

しかし、住んでいる町でごたごたがはじまっていた。

さて、この家族はこのあと、どのような選択をしていくのだろうか。

*****************

この作品は、ベルファスト出身のケネス・ブラナー監督の自伝的作品である。
テーマは家族であると思う。

しかし、どんな家族も、住んでいる地域の事情に影響を受ける。

この家族が住んでいるベルファストは、北アイルランド・アルスター地方にある。
イギリス系の住民が多いという事情から、アイルランドがイギリスから独立する際に、イギリス領として残った地域である。
アルスター地方はアイルランド島にありながらイギリス系住民(アングロ・サクソン系。プロテスタント)が多数派で、アイルランド人(ケルト系。カトリック)は少数派だ。
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*******************

この作品をみて、北アイルランド問題の発端がわかった。

北アイルランド問題というと、IRAというアイルランド系の過激派組織による武力闘争のイメージが強い。

しかし、この作品を見て思ったのは、そもそもの始まりは、強者であるイギリス系の住民の内の不良たちが、弱者であるカトリック教徒であるアイルランド系の住民を排除しようとしてことなのだとわかった。
強者の集団の中での不満分子がその矛先を弱者の排撃に向ける。
どこにでも起こりうる構図だ。
やられた弱者の側も黙ってはいないから、IRAのような組織ができ、過激な手段で対抗していくことになる。
そしていったん始まってしまった武力衝突は終結までに長い時間を要する。

北アイルランド問題は1968年に始まり、1998年までの30年間続いた。



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