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萩谷功枝

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親愛なる同志たちへ

21世紀になって、隠蔽されていた過去の忌まわしい事件が明らかにされ、それを描いた作品が制作されるようになった。
特に韓国では、光州事件を描いた『タクシー運転手』やチョン・ド・ホァン(全斗煥)大統領時代の悪政を描いた『弁護人」』、ソウル大生拷問死事件をきっかけとした民衆の蜂起を描いた『1987、ある闘いの真実』など、独裁政権の下では到底作られないであろう作品が制作されるようになった。
中国ではまだ無理だ。
では、ロシアは?

2020年のロシア映画『親愛なる同志たち』を公開初日(2022年4月8日)の朝一番で見てきた。見終わった後に思ったことは、「ソ連・ロシアの隠蔽体質・情報操作は何も変わってない」ということだった。
これが、2022年2月24日以前だったなら、ソ連時代の汚点を批判的に描いたロシア映画として素直に称賛できたと思う。しかし、残念なことに、歴史の激変のなかで、別の意味で「今」見るべき作品になってしまった。

『親愛なる同志たちへ』
親愛なる同志たちへ

2020年のロシア映画。
監督:アンドレイ・コンチャロフスキー
   (『暴走機関車』(85)、『映写技師は見ていた』(91)で知られるロシアの巨匠だそうです。私は今作が初めて。)

ソ連最大の労働者蜂起の悲劇「ノボチェルカッスク事件」の勃発から鎮圧までの1962年6月1日から3日のかけての3日間を描いたもの。

*********************************

優等生的な共産党員であり、スターリンを崇拝し、共産主義を信じて疑わなかったリューダが、デモに参加し消息が分からなくなった娘を探し回る。愛する娘を探すために、党の規律に反してまでも、探し回る。

この作品は「党への忠誠と娘への愛の間で揺れ動くリューダの心」がテーマなのだと思うが、事件の起きた3日間のことを細部にわたって丁寧に描いているので、私は、「ソ連時代の地方都市の暮らし、事件が起きてしまった時の上層部の対応、強引な鎮圧の後の事後処理のやり方」などに視点をあてて見た。

以下、私が注目したところ。

・食料品不足で早朝から並んでも買いたい商品が買えない一般市民を横目に、リューダは食料品店の店員から確保しておいてもらった商品を受け取る。市政委員会のメンバーというのは、この町の特権階級らしい。(ずるい)

・リューダが、「スターリン時代がなつかしい。」、といったこと。(ええ!!スターリンのもとでどれだけの人が粛清されたのか、ご存じないのですか?)

・賃金引き下げに怒った電気機関車工場で大規模なストライキが発生する。(労働者のための社会主義体制の国家のもとで、なんでストライキが発生するのだ。)

・デモを鎮静化せよという命令に対して、一人の軍人が「軍は市民を守るためにあるのですから、市民に銃は向けられません。」といった。(素晴らしい軍人としての意識。)
・しかし、これを「命令である」という言葉で一蹴した上官。(人間としての感情は無視。どうするべきかを考えたとしても、上官の命令がすべて。下士官は従うしかない。)

・それでも軍は、空砲や空への威嚇射撃で何とか鎮めようとしていた。それが実弾での銃撃に。次々に倒れていく人々。逃げ惑う人々。現場は大混乱になってしまった。
・事件後の検証の場で、KGBの地方本部は、責任を軍に押し付けた。(嘘だ。最初に撃ったのはKGBの狙撃兵だ。隠れた場所から、誰が撃ったのかわからない形での発砲だったけれど、リューダはそれを目撃していた。)

そして。一番驚くのは、その隠蔽体質
・事件中、市は封鎖され、市民は市外への外出は禁じられた。
・デモの参加者・関係者に対して、この事件のことを一切外には漏らさないという守秘義務の誓約書にサインさせる。誓約に違反した場合は死刑を含む厳罰に処せられますよ、という条文付き。(怖い!)

・結局この事件の首謀者7人が処刑された。(デモのリーダーになることは、死刑に相当する罪なのか。)
・KGBの公式データによる死者26人という数。(嘘だ。そんなに少ないはずはない。犠牲者の遺体を、家族のもとに返すことはおろか、誰のものかわからない形で隣町の墓地に埋めていた。

・ノボチェルカッスクの市民以外は、この出来事のことを知らなかっただろう。
KGBの地方本部は、モスクワの党中央委員会に知られることを恐れていたから、ある程度は報告されたとしても、その規模や、犠牲者の数は嘘だらけだろう。


そして、この事実は、その後30年間、隠蔽され続けた。



********************)
2022年4月。連日、ウクライナに関する報道がされている。
ロシア軍のキーウ撤退後、近郊のブチャなどで多数の遺体が発見された。酷すぎる。
拷問の後に殺害されたのが明らかな遺体。放置されていた遺体には地雷が仕掛けられていて、遺体を動かそうとして爆発することもあるという。
東部都市では避難する市民でごった返していた駅にミサイルが撃ち込まれ、多数の死者が発生した。

ロシア側は一切認めていない。

********************

過去の汚点に向き合えるかどうか?
映画にはそういう役割があると思うのだが、図らずも、この作品は、ロシアが60年前と全く変わっていない、ということ示すことになってしまった。

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