
ロシアのウクライナへの軍事侵攻を受けて、全国の映画館で『ひまわり』を再上映する動きが広まった。
ウクライナと言えば、豊かな大地。そこに広がるひまわり畑。
あの地で、今、何が起きているのか…。
上映館は限られていて、千葉県での上映は現在1館だけなのだが、そのうちの1館が我が家の最寄りの映画館だったので、さっそく見に行ってきた。
1970年の映画。当時、何度もテレビで放映されたものを見ていたので、ストーリーはわかっているのに、劇場で観賞すると、圧巻の映像とテーマ音楽にやられてしまう。
ソフィア・ローレンが汽車に飛び乗ったシーンで、どうしても涙。
一つ席を空けた隣の女性も涙。
見に行ってよかった。
そして。
映画を見て感動できたらそれでよいではないかといわれそうですが、いつものことながら、独ソ戦について調べ、その過酷さについて考えこみ、他の人のレビューを読んで、また考え込んでしまった。
いくつか整理しなければならないのだが、この作品については、読んでくださる方がストーリーをご存知だという前提で、ネタバレバレで書きます。
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私は、ソフィア・ローレン演じたジョバンナに共感できた。
彼女の強さが大好だ。
夫は生きている、と信じて冷戦時代のソ連にまで探しに行く。
夫を探し当てたとき、すべてを察して、無言で汽車に飛び乗り、去る。
こんなに悲しく美しい愛があるだろうか。
そして。
このシーンでこの作品を終えて、ひまわり畑のエンドロールでもよいのに、それで終わらない所が、この作品のすごいところだと思う。
どんなに悲しくても、その先、ジョバンナは生きていかなければならないのだ。
激しい感情をあらわにしながらも、過去に決別して強く生きていこうとするジョバンナ。
ソ連からイタリアまでわざわざ会いに来たアントニオの方が言い訳がましくて、未練がましい。
すべてが戦争のせいで、誰も悪くないけれど、一度狂った歯車はもとには戻せないのだ。
悲しいけれど。
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この作品でかねがね疑問に思っていたことは、リュドミラ・サベーリエワ演じるロシア娘が、広い雪原の戦場のなかから、なぜ、アントニオを助けたかということだ。
もちろん、アントニオの呼吸があり、生きていることがわかったからなのだが、彼女は何故あの場にいたのだろうか?
それに対する答えは、いくつかの解説やレビューを読んで推測できた。
貧しい彼女は、戦場に置き去りにされた兵士の遺体から金品をあさっていたのだ。
そして、まだ生きているアントンを見つけ、助けたいと思った。
美しいリュドミラ・サベーリエワの顔を浮かべると、それはちょっとショックなことだが、そういう事情だったと思う。
戦争によってひき裂かれてしまった男女を描いているロマンティックな作品なのだが、このことを考えるとリアルだ。
生きていくことの過酷さを思い知らされた。
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この作品が制作された1970年という時期に注目してみると、この時期がいわゆる「デタント(緊張緩和)」の時期であったことに気づく。
この作品は、イタリア・フランス・ソ連・アメリカの合作映画だ。デタントの時期だったからそれができた。
この作品は、冷戦期にソ連で初めて撮影された西側諸国の映画だそうだ。
あの広大なひまわり畑の映像は現地に行かなくては撮影できない。
このあと世界は1979年のソ連のアフガニスタン侵攻で「新冷戦」という時期に入っていく。。
国際情勢も映画の制作に影響するのだなと思った。
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Yahoo映画の作品レビューを読んでいたら、
“ウクライナを救え⇒戦争反対⇒「ひまわり」を見よう”
という図式を疑問視する投稿があった。
鋭い指摘だと思う。
今も、マリウポリの製鉄所の地下にこもっている兵士・民間人が命の危険にさらされている。
1970年の映画を見て感動しても、事態は何も変わらない。
むなしい。
ウクライナのことを思うこと、祈ることしかできない。
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それでも、知っておきたい。
第二次世界大戦における独ソ戦は、戦争を繰り返してきた人類の歴史の中でも類を見ない、桁違いの犠牲者をだした。
あの広大なひまわり畑、あの地は冬には広大に広がる雪原となり、多くの兵士が寒さの中で死んでいった。
あの広大なひまわり畑の土のなかには幾多の戦士の遺骨がある。
もう二度と同じことを起こしてはいけない、と、誰もが思っていたのではなかったのか?
反戦映画は、過去の悲しい出来事を風化させないためにあると思いたい。
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『ひまわり』
1970年 イタリア・フランス・ソ連・アメリカの合作映画。
監督:ヴィットーリオ・デ・シーカ
音楽:ヘンリ―・マンシーニ
出演:ソフィア・ローレン(ジョバンナ)
マルチェロ・マストロヤンニ(アントニオ)
マーシャ(リュドミラ・サベーリエワ)
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