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萩谷功枝

Author:萩谷功枝
世界史教師をしています。

映画や本の紹介、最新のニュースから感じたこと、など自分の日常を通して、世界史のことを考えていけたらと思います。

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『教育と愛国』

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私たちの気が付かない所で、日本が危険な方向に進んでいる。
この作品は、それに対して警鐘を鳴らしている。
丁寧な取材を積み重ねた良心的で勇気あるドキュメンタリー作品だ。

この作品の中で、一番衝撃を受けたのは、日本書籍というかつて中学校の歴史教科書では圧倒的シェアを誇った出版会社の倒産だった。

経緯を説明する。

2001年の日本書籍の中学歴史の教科書は、
「朝鮮などアジアの各地で若い女性が強制的に集められ、日本兵の慰安婦として戦場に送られました」と記載した。
右翼団体の街宣活動や脅迫状が届き、教科書会社の多くが慰安婦問題を避けるようになってゆく中で、日本書籍は、戦争加害の記述を増やし目立つことになった。
その結果、日本書籍の教科書の営業担当者もびっくりするような事態となる。
東京都23区中、すべての区で採用されていた日本書籍の教科書が、21区で採用がなくなったのだった。
採択が激減した日本書籍はその後倒産した。

戦時中の記述をめぐって一つの歴史教科書が、あっという間に採用されなくなる。
そして、そのことは、その後の教科書作りにも影響した。
編集者がいろいろ頑張ろうとすると、経営内部から「日本書籍の二の舞を踏むのか。」という圧力的発言がでるという。

教科書検定に合格するとかしないとかの前に、教科書出版社側が、右翼団体からの圧力を恐れて、攻撃されそうな記載を避けるという事態になってしまった。

日本書籍の元編集者池田剛さんの言うように、「戦争加害の問題について、教科書にちゃんと書かないと、戦争学習にはならない。」と、私も思うのだが。

**

「教育と愛国」の劇場パンフレットには、作品に登場した人たちのインタビューを文字おこしして、「シナリオ採録」として掲載しているので、あとで確認出来てありがたかった。
以下、そこから、作品中の気になった部分を引用してみる。

**

2012年2月大阪、民間タウンミーティングにて。
安倍首相
日本人というアイデンティティーを備えた国民を作る、ということを教育の目的に掲げて、そして教育の目標の1丁目1番地に道徳心を培う」「子供たちが学校において、日本という国も貶められていたら、日本人であるという誇りを持てなければ、自分自身に自信が持てないんですよ。当たり前じゃないですか。これを変えていかなければいけない。それは教育の現場を変えていくということなんですね。」

ん?自分の都合のいいように変えていこうとしていないか?
悪い方に変わってないか?

「日本人としての誇りを持つ」という部分はよいと思うけれど、そのために、過去の過ちについて触れずに、子供たちに日中戦争の歴史を教えてよいのか?
日中戦争は日本の侵略である。侵略の事実を指摘することは日本人として愉快でないのは当たり前だ。しかし、自分たちが愉快でないからというのは、相手のことを考えない一方的な理屈だ。侵略された側の歴史は、もっと悲しく悲惨で暗いのだから。
このことを、しっかりと認識し、考えることができる人になってもらうのが、歴史教育だと思う。  

さらに。
安倍首相
首長が教育について強い信念を持っていればね、その信念に基づいて教育委員を変えていくんですよ。たとえばあの横浜で育鵬社の教科書が採択されるというのは驚きなわけですよ。相当な決意をもって、一人ひとり順次、教育委員を、自分たちで決めようという強い意志を持った人に変えていった結果なんです。できている地域だってあるんです。」

それぞれの市が、検定に合格した教科書のうちのどれを採択しようが、それはその市に選ぶ権限があるのだから、文句は言えない。しかし、なにか、政治の力による誘導が感じられるのが薄気味悪い

育鵬社とは。
1997年に発足した「新しい歴史教科書をつくる会」は、2006年に、「自由社」と「育鵬社」に分裂した。
「育鵬社」の教科書は、神道の歴史を詳細に記述していることや、「教育勅語」を「国民の道徳の基盤になった」ととらえていることが特徴。(他社の教科書は、「教育勅語は戦後に廃止された。」と否定的に記載している。)

教育委員会とは。
教育委員と教育長は自治体首長の任命による。教育委員会は、首長からは独立した行政委員会として位置づけられ、教育行政における重要事項や基本方針を決定する。

首長の信念で、教育委員を変えていく...ということは、首長の言いなりになる人で教育委員会を構成するということだ。
同様のことが、あちこちで起こっていないか?
言いなりになる人を重用する、言いなりにならない人を恫喝する、あるいは、人事権を発動して遠ざける。
こうしたことにより、教科書出版会社の方々、歴史教育の現場にいる教員、教育行政に関わる公務員の方々など、良心に従っていい仕事をしようとしている方々が、その思いにかなった仕事ができなくなっている。
そのことの方が、美しくない日本を作ることになってしまわないか?。

*****

教育現場で今、何が起こっているのか?
学問の分野で何が起きているのか?

そのことを知ることができる作品です。

私たちは直接自分の生活に関係のないことに対しては興味を示さない。
批判や論争を避けたがる。
どんな教科書を使おうが、たいしてちがわないだろう、と安易に考える。

気がつきにくいから怖いのだ。

権力が暴走しないように、何が起きているのかを知ること、そして、批判すべきことに対しては批判することを恐れないこと。
このことを心に刻んで、物事を見つめていきたい。







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