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萩谷功枝

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ある画家の数奇な運命

東京国立近代美術館で開催中の「ゲルハルト・リヒター展」に行ってきました。
現代アートはよくわからないと思っていた私ですが、「ある画家の数奇な運命」を見て、モデルとなっているのがゲルハルト・リヒターであると知り、そしてちょうど今、彼の美術展が開催中であるとわかった時、見に行きたいと強く思ったからでした。

「ある画家の数奇な運命」は、以前、どこかでポスターを見ていて気になっていた作品でした。劇場での公開中に行けなくて、そのまま忘れていたのですが、3日前に、家でゆっくりネット配信を見て過ごそうとして、何を見ようか探していたら、たまたま出てきた作品です。

正直に言うと、ゲルハルト・リヒターについては、名前すら知りませんでした。
3日前まで何も知らなかった私が、映画を見て、リヒターのことを知り、彼の作品をどうしても見てみたいと思い、美術展にいく。
こういうのを出会いというのかもしれないと、勝手に思いました。

ゲルハルト・リヒター展、よかったです。
美術展は空気です。
展示場に一歩入ったとたんに、何かを感じました。
何を描いているのかわからないような抽象画も、絵の前に立つと、作者の思いが込められているように感じられるのです。
本物の持つオーラがありました。

*******************
ある画家の数奇な運命

『ある画家の数奇な運命』
冒頭からの最初の30分ほどまでのところで、絶句するほどの強い衝撃を受けました。

ひどい!ひどすぎる!

ナチ党政権時代に行われた「優生政策」に怒りを感じました。
ヒトラーはユダヤ人に対してだけでなく、自国民の障碍者も「生きるに値しない命」と考えていたのです。

主人公クルトの叔母は、ナチ党政権による「障碍者安楽死政策」によって命を奪われました
若くて美しく、クルトに芸術を教えてくれた感受性豊かな叔母をそんな形で失ったことは幼いクルトの心に大きな影を落としました。

その後のストーリーは、一転、成長した主人公クルトの人生を描いています。
東西ドイツの分断ベルリンの壁構築など、クルトの人生は政治の動きに翻弄されますが、そんな中で、画家としての人生を歩んでいきます。
自分の描きたいものは何なのかを悩みながら模索していきます。
東ドイツ時代には、生活費のために、自分の意にそぐわない、社会主義賛美の壁画の作成を請け負い、そこに笑顔で働く労働者たちの姿を描きました。
それはクルトの描きたい絵ではありませんでした。

心のまま自由に描きたい。
そして、1961年、ベルリンの壁構築の直前に西ドイツに移住します。

このあとクルトはどんな境地に達するのでしょうか。

******************

監督は「善き人のためのソナタ」のフロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク
ドイツ映画は、ナチ政権時代のことや、東西ドイツの分断、東ドイツの社会主義政権のもとでの自由が制限された時代のことなど、過去と向き合わなくてはならい作品が多いのですが、私は「善き人~」もこの作品も好きなので、この監督の作品をもっと見てみたいと思いました。

クルトの恋人で妻となったエリーの父親を演じたのは、「善き人~」で、シュタージのヴィスラー大尉に監視される側の劇作家ドライマン役のセバスチャン・コッホ
「ある画家の~」では、戦時中に「優生政策」に関わった著名な産婦人科医役で登場します。そして、敗戦国の将校としての収監も、戦後の戦争犯罪人追及をも、うまくすり抜け、権威主義的な父親として、自分の娘の恋人のクルトに対して高圧的な態度をとります。

だから、エリーが「父親の干渉から逃れたいの」と、貧しいクルトとの生活を選んだことに共感しました。
(この時エリーはまさか、この貧しかったクルトが、将来、オークションに出せば億単位の値が付くほどの画家になるとは思っていなかったのです。)

プロローグでどえらいショックを受けてしまったので、どんな暗いストーリーの展開が待っているのかと身構えてしまいましたが、見終わった後は、当初の予想とは全く違う、ほんわかした気分になれました。

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「ある画家の数奇な運命」は2020年に公開された作品ですが、2022年7月29日から、東京・TOHOシネマズ日本橋で期間限定で上映されるそうです。
配信なら、U-Nextで会員無料、Amazonプライムでレンタル300円で見られます。
ゲルハルト・リヒター展」は竹橋の東京国立近代美術館で2022年6月7日から10月2日まで開催。入館料は一般2200円(ちょっと高いなあ。)

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