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萩谷功枝

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『大統領の執事の涙』 差別の時代の黒人親子の生き方

遅ればせながら、「大統領の執事の涙」をDVDで観賞。

2013年のアメリカ映画。
日本では今年の2月に公開された。
評判が良かったので、見に行きたいと思っていて、行きそこなってしまい、DVDでやっと見ることができた。

アイゼンハウアー、ケネディ、ジョンソン、ニクソンなど7人の大統領に仕えた黒人執事の話。
執事から見た大統領像を7代にわたって比較する話なのかなと勝手に思って見始めたら違った。

これは、人種差別がまだ激しかった1950年代から、初の黒人大統領オバマ誕生に至るまでの、数十年にわたる時代を生き抜いた黒人の親子の生き方を描いた作品である。



差別が激しい世の中に、差別される側に生まれてしまったら、どのような生き方が考えられるだろうか?

農場に生まれたセシルは農場主の理不尽な行為により、父を殺され、母は廃人となってしまう。
農場から逃げ出したセシルは、給仕の仕事について何とか生き抜いていく。

そう、セシルは生き抜いていかなければならなかったのだ。
世の中が間違っているとか、差別はいけないとかそういう問題ではない。
職を得て、お金を稼がなくては生活できないのだ。
得ることができた職に真摯に取り組むセシル。
信頼を得て、大統領の執事にまでなる。

立派な生き方だと思う。

一方、息子のルイスは、差別と徹底的に戦う。
だか、考えてみれば、そうした活動ができるのは、父親が執事として稼いだ金で、生活が成り立ち、大学に行くことができたからだ。

しかし、ルイスは、執事として働く父を、白人に媚びへつらう卑屈な仕事をしている人間として批判的に見ている。

途中、ルイスとキング牧師が語り合う場面がある。
父親の職業を聞かれて、言いにくそうに「執事です。」と答えるルイスに対して、キング牧師は、「執事は立派な職業だ。」という。

父の職業を恥じているルイスに対するこの言葉に、キング牧師という指導者の心の大きさを感じた。



この作品は、盛り込みすぎというくらい、アメリカ史の様々な出来事が登場する。
アメリカの歴史を学ぶには教科書的な映画である。
バス=ボイコット運動、ワシントン大行進、そして1964年に公民権法の成立。
あるいは、国家と戦う兄ルイスに対して、国家のためにベトナム戦争に従軍し、戦死する弟チャーリー。

映画は、後半、黒人差別と闘い続ける息子ルイスに、セシルが理解を示していく展開になる。
おもてだって支援はしないものの、遠くから温かい目でルイスをみつめるセシル。
そして、初の黒人大統領オバマ誕生というところで終わる。
オバマ政権の誕生は、人種差別をしていたアメリカがこういう時代になりましたよという象徴であった。
セシルの人生を振り返ったとき、黒人が大統領になる時代が来た、という事実そのものが感慨深いものだろう。



しかし、時の流れは、それほど甘くはない。
この映画の公開から1年後の2014年11月6日の朝刊のみだしは、「オバマ民主、歴史的敗北」だった。
もう、大統領が白人であるとか黒人であるとかは関係ない。
大統領としてどれだけのことを成しえたかが問われている。

さらに、11月下旬、黒人少年を射殺した白人警官の不起訴が決まったことで、ミズーリ州ファーガソンで抗議デモが起こった。
人々の怒りは、「この事件の根底には人種差別がある。」ということで爆発した。
公民権法の成立をもって、黒人への差別はなくなった、なんてことはまったく言えないのだ。

時代はどんどん変化していく。
過去の出来事は事実としてまったく変わらないのに、その出来事のもつ意味は時代の流れとともに変わっていく。

この映画も10年後にみたら、全く違った見方をするようになっているかもしれない。
その時に、「昔は、こんな差別の時代があったんだねえ。」、なんて感想を言えるような時代になっていてほしいと思う。
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