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萩谷功枝

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世界史教師をしています。

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高齢になってから花を咲かせた人

私事ながら満60歳になりました。

だからと言ってどうこうということはないのだが、やはり、年齢について考えてしまう。
統計上の分類でいうと65歳以上が老齢人口であるから、「まだまだ生産年齢人口に属している」とは思うのだが、60歳というそれなりの年齢に達したのだから、高齢者であることをしっかり自覚して生きていかねばと思う。

さて、年齢のことをあれこれ考えているうちに、「高齢になってから花を咲かせた人」というテーマを思いついた。浮かんだのは、時代も分野もまるで異なるのだが、伊能忠敬松本清張だった。




伊能忠敬は、全国を測量し、日本初めての実測による日本地図を作成した。
しかし、彼が日本地図作成に取り掛かったのは隠居後のことだった。

忠敬は、18歳で下総国佐原村の伊能家に婿養子に入り、傾きかけていた伊能家を再興する。
36歳で佐原村の名主となり、天明の飢饉では、私財をなげうって地域の窮民を救済した。
50歳で隠居し、家督を長男に譲り、江戸に出て幕府の天文方、高橋至時に学ぶ
このとき、師匠の至時31歳、弟子入りした忠敬は50歳であったという。
その後、56歳から足掛け17年をかけて全国を測量し、74歳で没した。
彼の死後、弟子たちによって、日本初の実測地図『大日本沿海輿地全図』が完成した。

婿養子、村の名主としての責務を十分に果たしたのち、隠居後にさらに大きな仕事を成し遂げた、というところが素敵だと思う。
もともと暦法や測量に興味があったようなのだが、50歳を過ぎてから江戸に出て、19歳年下の至時に師事し、新しいことに挑戦し、学ぶというエネルギーに敬服する。
おそらく、ずっと地図の作成がしたかったのだが、婿として名主としてするべきことがあり、隠居してそれから解放されるまで、やりたいことを我慢していたのではないかと想像する。

○○○
松本清張は、若いころから文学に対する情熱はあったのだが、生家が貧しかったため、高等小学校卒業後、給仕、印刷所の版下工、その他の職を転々として、苦しい生家の家計をささえた。その後、本格的な作家活動に入るのは、広告部員として働いた朝日新聞社を退社してからで、この時すでに40代後半になっている。
彼もまた、家庭の事情で自分のやりたいことが自由にできず、人生の後半期になるまで、それができる環境になるのを待たなければならなかった。
だからだろうか、作家活動に専念した松本清張は、驚くべきスピードで、多くの傑作を執筆した。


「高齢になってから花を咲かせた人」という変なテーマをつくってしまったが、彼らを見ていると、大切なのは、何歳であろうが、やりたいことに対する熱意だということに気づかされる。

彼らが一花咲かせるまで、なぜ年月がかかってしまったかというと、家庭人として、社会人として、それぞれの事情を抱えていたからであり、それを放棄せずにやりとげてから、自分のやりたいことに取り組んだからである。

人は様々な事情を抱えているのだから、60歳という年齢は、「やっとこれから好きなことができる」、という年齢なのかもしれない。

ただ、そういう状況になれたとしても、凡人はなすべき何かがなかなか見つからないのだけれども。
自分自身を考えた場合、この年齢になってから「花を咲かせる」なんてことはできないが、、伊能忠敬のエネルギーを見習えば、何かはできると思う。
先日、人生の先輩から60代なんてまだまだ若者だ、と叱咤されてしまった。

楽隠居はまだもう少し先に見送っておこう。
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