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萩谷功枝

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世界史教師をしています。

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リンカーン

前回、奴隷貿易廃止に尽力したウィルバーフォースを描いた作品「アメイジング・グレイス」について書いた。
場面はほとんどがイギリス議会の議場。
これを見ていたら、昨年、映画館で見た「リンカーン」がもう一度見たくなった。

手帳を確認したら、昨年の4月21日に見に行っていた。
世界史教師をしているという事情もあり、見ておけねばならぬという義務感も働いて見に行った映画だ。

勝手な先入観があった。貧しい農民の出身だったリンカーンの半生や、南北戦争の戦闘シーンなどの場面展開のある映画だと思っていたのだ。
そうではなかった。時期は、南北戦争末期の1865年1月に限定している。
場面のほとんどが下院の議場で、憲法修正13条の成立をめぐる共和党と民主党のやりとり。

浅はかな私の勘違いもあった。
リンカーンが奴隷解放宣言を出したのが1863年。北軍が勝利すれば、あっさりこの宣言により、アメリカ合衆国全土で奴隷解放が実現すると思っていたのだ。
認識不足。こんなこと生徒に言えない。

で、以下の点を理解していないと、何が争点なのかわかりにくいので、少々、解説しておく。

リンカーン
2012年のアメリカ映画。スティーヴン・スピルバーグ監督。
リンカーンを演じたダニエル・デイ=ルイスはアカデミー主演男優賞。
南北戦争末期の1865年1月、アメリカ合衆国の下院における憲法修正13条の成立をめぐるリンカーン大統領の苦悩に的を絞った作品である。

リンカーン大統領の苦悩の原因は何か。
修正案を可決させるには、3分の2の賛成がいる。共和党議員全員が賛成票を投じても、あと20票足りない。
なんとか、民主党議員の一部を取り込んで、賛成に回らせなければならない。
そのためには買収まがいのこともする。

苦悩の原因は複雑である。
この悲惨な戦争を早く終わらせたい。南部の敗北は目前である。
しかし、修正案が可決する前に和平が成立してしまえば、賛成票は入れないという南部議員もいる。
修正案が先に成立した場合は、和平がこじれる。奴隷制の維持に固執して、連邦から離反する州が出る可能性もある。

和平と修正案の成立。時間的なさじ加減が微妙なのだ。

リンカーンはアメリカ合衆国の再統一と、アメリカ合衆国全州における奴隷の解放を目指しているのだ。

そのためには、南部からの和平交渉の使節を、ワシントンまで来させずに、バージニア州で待機させておくという、ばれたら問題になるワザも使う。

議員の中にはスティーヴンスのような急進派もいる。
彼は、人間は完全に平等だと考えている。
人種間の差はない。白人と黒人との間に優劣などないと。
しかし、それを強調すれば、反対派の反発はさらに強くなる。
そのため、彼は、修正案の言っている平等は、人種間の平等ではなく、「法の前の平等である。」ということにとどめる。
これは、彼が長年言い続けてきたことからの後退で、彼にとっては屈辱なのだ。
しかし、彼は自制し、法案が可決されることを優先する。



最後に。
恥をしのんで白状してしまえば、理解力の低い私は、実は、映画館で初めて見たとき、この和平交渉の使節に絡む展開と、スティーヴンス議員の場面がよくわからなかった。
心の中で、「なぜだ?」
しかも、世界史を教えているという自分が理解できないのはまずい、という変な見栄が働いてあせった。

DVDを借りてきて、ゆっくり見たら、非常によくわかった。

映画はとにかく楽しまなきゃね。
劇場で見れば、大勢の人と感動を共有できる。
大画面の前の空気感は、自宅のソファにそっくり返ってみるのとはちがう。
これが劇場で見る最大のメリット。

でも、よくわからなかったら、DVDで検証してみよう。
なんて、こんなヒマジン、いませんよね。




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