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萩谷功枝

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世界史教師をしています。

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『愛を読む人』

愛を読む人
この作品の映画ポスターやDVDのパッケージの画像は有名なので、何度となく目にしていた。画像のイメージから、この作品が恋愛ドラマなのだろうと勝手に想像していて、歴史ドラマに凝り固まっている私は、自分の興味の対象外だと思っていて、ずっとスルーしていた。長い間、作品の内容を知らずにいたとは、我ながら残念なことをしていたと思っている。
すごい作品でした。で、今から挽回します。

作品の導入部では、15歳の少年マイケルが21歳年上の女性ハンナとの関わりで、性に目覚めていくストーリーなのかと思ってしまう。が、中盤以降、ハンナが抱えている事情がわかってくると、その重さにいろいろなことを考えさせられる。
この作品は、ナチス・ドイツのユダヤ人迫害という戦争犯罪、および迫害にまわってしまった側の事情、さらにはその後の人生など非常に深いテーマを扱った内容だ。
映画でははっきりと示されていないのだが、原作では、ハンナがロマ(かつてジプシーと呼ばれていた人たち)であることが書かれているという。
ということは、さらに深い問題を含んでいることになる。
ロマは、ユダヤ人以上に差別・迫害されてきた民族なのだ。

差別されているものが、差別・迫害を行う側にまわってしまうという恐ろしさ・・。

ハンナはきちんとした教育を受けていない。そしてそれを隠して生きていた。
教育を受けていない、つまり文字が読めないということは「恥かしいこと」であり、それを人に知られたくないから隠し続けたのだろう、と思ってみていた。
しかし、なぜ教育を受けられなかったのか、ということを考えた場合、単に「恥ずかしい」という問題などでは済まされない、差別されてきた民族の長い歴史があることがわかる。「文字を読めないこと」を知られることは、自分が差別される側の立場にあるということを知られてしまうということで、ハンナにとって生きるか死ぬかに関わってくる問題だったのだ。(ロマも人種的な迫害の対象となったグループで、多くの人が収容所で殺害されている。)


ストーリーの展開の中で、終盤、マイケルがハンナのためにしてあげたこと、そしてハンナが文字を学ぼうとしたところがとても感動的だった。
ハンナの辛い人生の中で、この時が最も幸せだったのではないかとさえ思えた。
作品の中でもこの部分が最高潮なので、ここで物語を終わらせたらよかったのに、と思った。
だからマイケルが、アメリカまで、ハンナの残した空き缶に入ったお金を届けに行くところや、マイケルが自分の娘をハンナのお墓に連れて行くラストの場面はむしろ間延びしてしまって、蛇足だったのではないかと感じた。
しかし、そうではないのだ。
感動的な盛り上がりで終わらせていいストーリーではないのだ。
何年たとうが、ユダヤ人にとって、収容所での出来事は許すことのできないことである。
アメリカで生き延びたユダヤ人女性が、マイケルに対してそっけないほどの態度で、「お金は受け取ることはできない。」と言って、空き缶だけを受け取るのは、当たり前の対応なのだ。
そして、お墓を訪れる場面も、マイケルが次の世代にこの悲しいストーリーを伝えようとしていることを表している象徴的な場面なのだと思った。

『愛を読む人』
2008年の作品(日本での公開は2009年6月)。
原作:『朗読者』 byベルンハルト・シュリンク
監督:スティーブン・ダルドリー
ハンナを演じたケイト・ウィンスレットはアカデミー賞主演女優賞。

       
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